エピソード3:お盆の過ごし方 / 2
寝巻きのシャツから謎の文字の書かれた白いTシャツに着替えて、和茶はバイトに行く準備を始めた。まぁ、リュックに大容量のお茶のボトルを突っ込んで、尻ポケットに携帯を突っ込んで、エナジードリンクを一気飲みするだけだが。朝から夕方までの勤務か、長いな……そんな独り言を言いつつ、鏡の前に立って髪を整える。
すると、鏡の中の和茶が笑った。その瞬間、和茶は鏡を叩き割ろうか、真剣に悩んだ。しかし、鏡を弁償するようなお金は無い。何も見なかったことにして、和茶は部屋を出た。ダッシュで。そして、駐輪スペースに直行することなく、時間的に非常識だとかそういうことを全て無視して、管理人室のチャイムを鳴らした。
少しして、管理人室の玄関扉が開いた。眠たげな嶺想寺が、顔色が最悪の和茶に言う。心霊現象でも起きました?と。
「鏡の中の俺が笑ったんスけど!!」
「あぁ、なるほど……。ふぁー……まぁ、僕の手書きのお札をあげるので貼っておいてくださいよ」
「何、その雑な扱い!!」
思わずタメ口になってしまうくらいには、嶺想寺の対応は雑だった。恐らく、寝起きだからということもあるだろう。寝起きは誰でものんびり過ごしたいものだ。叩き起こした和茶も悪い、だが、結構な非常事態だ。嶺想寺は一度、管理人室の中へ戻った。3分後、嶺想寺は適当に「悪霊退散」と書いた紙を持って出てきた。
和茶はそれを受け取り、一度、自室に戻って鏡のど真ん中に嶺想寺のくれたお札を貼った。不便だが仕方ない。そして、これからバイトであることを思い出し、和茶は再び部屋を出た。今度は駐輪スペースに直行し、自転車に乗った。田舎から上京してきてすぐに買った愛車だ。名前は疾風丸。その疾風丸を立ち漕ぎして、和茶はバイト先へと走る。
「俺、先月に休みの申請したのになーっ!!」
風を切りながら、ワーワーと喚く。和茶は自分では精神的に大人な方だと思っているのだが、やはり、こんな事態には納得出来ない。一香が許してくれたから良かったものの、嫌だと言われたら、和茶は詰んでいた。バイトも大事、彼女も大事。仕事と私、どっちが大事なの!?と聞かれたら、答えられない。男として、どうなのか。
そうこうしているうちに、バイト先に着いた。カラオケスナック<仁義>。今は憎き、和茶のバイト先。疾風丸を店の駐輪スペースに停め、和茶は店内へと入った。




