エピソード2:塩分を求める死者 / 2
和茶が醤油を分けた「お姉さん」の名前は、遠藤 美嘉子と言った。死んでいるか、生きているか、どちらかと言えば……死んでいた。和茶の部屋に上がり込んで、美嘉子は「お醤油の分の情報を提供してあげる」と言って、まずは自分のことを話し出した。自分が享年23歳で亡くなっていること。地獄での2年の「徳積み」で生き返ったこと。
地獄だの徳積みだの、正直、和茶にはよく分からない。和茶が理解したのは、美嘉子とこうして話すような「ご近所さん」または「お隣りさん」になってしまったのは、自身の過失が原因であるということだった。今度からちゃんと誰が来たのか確認しよう。そう自身に言い聞かせ、和茶は美嘉子の話に付き合うことにした。時刻は、夕方の4時。
「で、飯山君は何か知りたいこと、ないの?」
「無知の極みなので自分が何を知りたいかが知りたいです」
「……デッド・ハイツに今までいなかったタイプだね、君は」
あぁ、そういえば。和茶の頭の片隅にとある疑問が残っていた。それは、疑問とも認識出来ないほどの疑問。
美嘉子が当たり前のように醤油を借りに来たから、そう思っていたのだが……美嘉子は「塩分」を摂取出来るのだろうか。それとも、あの醤油は婚約者の食事を作る為に使うのだろうか。後者の場合は美嘉子の婚約者、高木が「醤油を摂取出来る何者かである」という前提だが。これを最後の質問に、と思い、和茶は美嘉子に尋ねた。
「あのー……遠藤さん、質問が」
「美嘉子でいいわよ、あたしも和茶君って呼びたいし」
「じゃあ、美嘉子さん。……お醤油って、摂取出来るんですか?」
和茶の問いに、美嘉子は簡潔に答えてくれた。──それぞれ手法はあるんだけど、今時はゾンビも幽霊も塩分OKよ。……その「それぞれ」に踏み入ってしまったら後戻り出来ない気がして、和茶は「分かりました……」とだけ答えた。美嘉子が今時の「ゾンビ」なのか、今時の「幽霊」なのか。それも聞かないでおく。
と、そんな時に、再び和茶の部屋の玄関をノックする音がした。和茶はもう過ちを繰り返さない。和茶は玄関扉の前に立って言った。どちら様ですか!と。




