おまけ18 元伯爵令嬢の末路5
男達は武器を持ってソルティアの乗る馬車に向かってくる。ソルティアへの復讐だ。武器で痛めつけ素手で殴り足で蹴り、女としての尊厳を奪う。少し前に彼女の姉とその友人にしようとしていたことをソルティアにするつもりなのだ。
そして、最後は命も……。
「ひいいいい!」
肝心のソルティアは、彼らが自分に何をしようとしているのか察して恐怖するしかない。逃げようと思ったが恐ろしくて体が思うように動かないため、馬車の中で縮こまるしかなかった。
「う、うわああ、し、死にたくない……死にたくない……!」
恐怖と絶望がソルティアの頭の中を支配していく。
(こんなことになるなんて! これも、自業自得だっていうの!? 私の、これまでの行いのせいで!?)
ソルティアは今再び己の行いを後悔する。これから自分に降りかかる不幸になすすべもないのだから。きっと自分は散々痛めつけられて殺されるに違いないとソルティアは絶望した。
「あああ、お姉様~……」
ソルティアの脳裏に浮かんだのは、カリブラでも両親でも義兄でもなく、姉のアスーナの顔だ。皮肉にも、一番頼りたくて一番頼ってきた相手が姉だったのだと今になってソルティアは気づいた。命の危機が迫る時に、今一番頼ることができない状況で。
――ただ、ソルティアの運命はここで途切れることはなかった。
「――そこまでだクズども」
若い男の声が不思議とはっきり聞こえた。感情の籠もっていない淡々とした声色は明らかに襲いかかってくる男達とは違う。不思議に思ったソルティアは何事かと顔をあげて窓を見れば、驚くべき光景があった。
「えぁっ!?」
「ぐたっ!?」
「ぜしゅっ!?」
「いぐっ!?」
「どばっ!?」
どういうわけか、ソルティアを乗せた馬車の御者が襲いかかってくる男達を槍で叩きのめしていたのだ。たった一人で武器を持った男達をなぎ倒す御者の姿に、ソルティアは唖然とした。
「……何あれ」
馬車の御者は二十代後半の地味で目立たない感じの男。それ意外にソルティアは知らない。そもそも会話すらしていないのだから、男達をなぎ倒す男のことをどう思えばいいのかも分からない。ただ、男達を『クズ』呼ばわりしている辺りからしてソルティアの敵では無さそうだが、頭が追いつかないソルティアは困惑するしかなかった。
「――撃土流我」
「「「「「ぶわああああっ!」」」」」
御者は槍を回転させて満身創痍にまでなった男達を容赦なく薙ぎ払った。薙ぎ払われた男達は倒れてピクリとも動かない。それはつまり……。
「ソルティア嬢、お気になさらず」
「――っ!?」
御者が初めてソルティアに口を利いた。しかし、未だに彼が敵か味方かも分かっていないソルティアは何も答えられない。思わず後ろに倒れ込むが、御者は構うこと無く続ける。




