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おまけ12 元侯爵令息の末路4(総集編?)

投影機から映される映像が消える。その瞬間、カリブラは体の力が抜けた気分になった。



(……こ、これで終わりなのか? それなら良かったんだけど何故だ? 証拠としては十分だからか?)



映像が終わったことに安堵するカリブラだが、その理由がわからなかった。続きがあれば、取り巻きたちが謎の二人組に叩きのめされてしまうはずだったのだから。それを映さない理由が分からないが、カリブラはもう終わったと思い込んだ。


しかし、違う。先程の続きと言えばグラファイト公爵家とモタス伯爵家の『陰』が現れる場面、両家の機密事項を他家に映し出すわけにはいかなかっただけだ。


つまり、それ以外なら映してもい構わないわけだ。



「続きは、ここからがいいな」


「っ!?」



王太子が投影機を再び動かした。次の場面は、取り巻き全員が床に倒れている。もちろん一緒に映されるアスーナとバニアは無事だった。



「詳しい話は省くが、アスーナ嬢とバニア嬢は無事です。一切傷物になることはありませんでした。何故なら、とある理由で助けが入ったことでも盛られたのです。だから、彼らは床に寝ているのです」


(なんだよ!? あの二人組はどうしたんだよ!? あいつらは映さないのかよ!?)


『ああ、ドーラ、ルギリ! ひっ、ローボル、トテマ……!』



みっともない顔で床に転がされる取り巻きたちの姿。今、それを見させられている取り巻きとその親達は苦虫を噛む思いだった。ただ、彼らも何も言うことはない。自業自得、それが分かっているのだから。



『ひっ、ひいい! ぼ、僕に近寄るな! ぼ、僕に何かすればただじゃ済まないぞ!』


「……」



次に映されるのはカリブラが恐怖して後退り、みっともなく虚勢を張る姿。あまりにも惨めな姿にカリブラ自身はもう下を向いた。



『僕はゲムデス侯爵家の嫡男なんだ! 王家に匹敵する権力を持った家で名門なんだ! 僕に何かあれば、父上と母上が黙っていないんだ! お前らもアスーナも酷い目に合うんだぞ! 謝るなら今のうち、』


『――なわけないだろ!』


『っ!?』



ハラドが映った瞬間、ここで投影機による証拠の提示は本当に終わった。今度こそもう十分だというわけだ。



「これがグラファイト公爵家からの証拠です。……悍ましい話ですね。令息たちで、集団で、令嬢二人を無理やり手籠めにしようだなんて」



王太子の台詞には皮肉が込められている。カリブラもそれに気づいたが、顔をあげられない。もうすでにカリブラの心は折れてしまったのだ。



(僕は……あんな男だったのか……)



投影機に映し出されたカリブラ、自分の姿はあまりにも醜いものだった。下卑た笑み、醜悪な表情、奇声、怒り狂う顔つき、憎悪の瞳、惨めに虚勢を張る姿まで見苦しくて仕方がなかった。今の今まで周りの者が自分のことをどう見ているのか気にしなかったが、こんな物を見せられてカリブラは初めて自分の所業を恥じた。



(あ、アスーナの……言う通りだった、のか……)


「こんな連中は貴族の風上にもおけない害虫そのものじゃないですか。そう思いません?」


「害虫……」



害虫という言葉にカリブラは、そう言えばハラドにもそう言われたなと思い出した。全否定するような冷たい目で蔑まれたことも。



――大切な婚約者に害虫が近づこうとしているから駆除するのは当然だろ?


――お前のことだよ。カリブラ・ゲムデス



大切な婚約者、思えばハラドはアスーナのために万全の準備をして動いた。こんな証拠を準備するほどに。


そして、アスーナのために動いたのはハラドだけではない。カリブラの嫌いなバニアもそうだった。



――アスーナにここまでさせるなんて~……本当に最低な男


(アスーナのために、ハラドとあの女が……)



ハラドとバニアにそこまでさせられるアスーナは凄い。カリブラは今初めてアスーナを尊敬した。それにアスーナ本人は、カリブラを追い詰めるために囮役になった。一番危険な立場に立ってカリブラの計画を阻止したわけだ。



(なんで、アスーナはそこまで……)


――なんで? それは貴方が最低で害虫で、醜くて見苦しくてくだらないからですよ。もう何度も苦言を呈してきましたが貴方は何も反省しないで人のせいにするばかり。そんな貴方の思い通りになるなんてまっぴら御免ですから


「っ!?」



アスーナの声が聞こえた。そんな錯覚を覚えたカリブラは、自分がアスーナたちの言うような人間だったのではないかと思い始めた。



(ち、違う……そんなはずはない! ぼ、僕は侯爵令息で……美形で、あとそれから……)



だが、上級貴族としてのプライドが自分の非を認めない。認めたくないという気持ちを起こさせる。しかし、思い返せば自分に良いところなど無く、更に立場と顔ぐらいしか取り柄がないのではないかとまで思い始めてしまう。



(アスーナたちは成績優秀で、僕は……アスーナの言う通り反省していれば……)



カリブラは気づかぬうちに大粒の涙を溢していた。今になって思い返して、自分の所業に後悔し始めたのだ。どれだけアスーナに迷惑を掛けてきたのか、どれだけの人たちに苦労をかけてきたのか。



(僕は……僕は……!)



今更遅かった。遅すぎた。それでも過去を思い返さずにはいられない。


その間にも裁判は続いているのだが、カリブラのことを放っておいて終わるまで続いた。カリブラの耳に入ることもなく。


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