おまけ11 元侯爵令息の末路3(総集編?)
「な、なんだよこれ……」
カリブラは思わず声を上げた。無理もない。提示された証拠というのは、投影機により『あの時』を映し出した映像だったのだ。
(あ、あの時の光景を投影機に録画していやがったのか!? なんてことを……!)
『やあやあアスーナにバニア嬢。待ちわびていたよ……』
『……カリブラ様?』
『ああそうだ。お前の伴侶となるべき男さ』
映し出されたカリブラの顔は見るからに下卑た笑みそのもの。映っているアスーナのように見ている者ほぼ全員が顔をしかめる。マキナも例外ではなく映される息子に軽蔑の眼差しを向ける。ただ、今ここにいるカリブラ自身は羞恥に震えていた。
(こ、こんな最初のところを……しかも、言葉まで……)
『お前が真に結ばれるべき相手はこの僕なのにお前は拒んだ。ハラドなんかに乗り換えて僕を捨てようなんて生意気なことをするから少し強引な手に出ると決めたんだ。僕のものになるしかならないようにね』
自分勝手なカリブラのセリフを合図に、取り巻きたちも現れる。もちろん下卑た顔で。そして、今ここにいる取り巻きたちもまたカリブラのように羞恥のあまり顔を背ける。彼らの親たちも見ているのだから当然だ。汚いものを見るような目で見られることに耐えられないのだ。
『この僕が寄りを戻してやろうというのに、ハラドと仲良くなりやがって! それにその女も許せるわけ無いんだよ! 伯爵令嬢の分際で僕をこの僕を馬鹿にしてコケにして恥をかけさせやがって! この屈辱を晴らすためにもその女には恥辱を味わってもらわないといけないんだよ!』
「なんて自分勝手な理屈だ。侯爵令息とはいえ、横暴すぎる考えだ」
「いや、これはもう貴族紳士の考え方からも外れている。人間のクズだ」
笑顔から一転して醜悪な顔で身勝手な言い分を叫ぶのは、映し出されるカリブラ。醜悪さ以上にその言動が目立つのか聞いている取り巻きの親たちからも苦言を口にされる。マキナは吐き気が込み上げたのか口元を多い出す始末だ。
(な、なんだよ……僕の理屈が間違っているというのか? 母上までなんで……。そもそも、あれは本当に僕なのか? この僕があの時、あんな顔で……)
自身の醜悪な顔を自分で見て、カリブラ自身も絶句してしまった。あの時の自分はこんな顔だったなんて……。
『貴方は実に醜い。自分の思い通りにならないことをすぐ人のせいにして自分に非がないと喚いて反省もしない。挙げ句には、こうして力尽くで解決しようとまで……こんな醜くて見苦しくてくだらない男と婚約破棄できてよかったです』
『本当よね~。醜い~。自分のことしか考えられない頭だから他人に拒絶される理由がわからないんだね~。……本当に最悪な男。典型的なクズ』
「ぐっ……」
あらためて聞かされるアスーナとバニアの罵倒に対して、カリブラは怒りが込み上げてくるがグッとこらえた。ここで騒いでも意味がないし印象が悪くなるだけなことくらいカリブラも分かっていたのだ。
ただ、我慢しても結果は見えているのだが。
「ぷっ」
「っ!?」
バニアの罵倒を聞いた王太子が吹き出した。どうも王太子も同じことを思っていたらしい。そんな王太子の様子に気づいたカリブラは唖然とした。王太子に笑われるなんて……と思った矢先、更に批判の声が上がった。
「醜いか。全くだ」
「それに見苦しくてくだらない、最悪だな」
(なんだよ……僕の思い通りにしたかっただけなのに……!)
取り巻きの親といえば男爵やよくても子爵しかいない。そんな者たちにまで蔑まされたカリブラは流石に怒りを堪えられない。感情に任せて喚こうとした直後だった。
『ふ、ふざ……ふざけ、ふざけんな、うぐわあああああ、ぬぐあああああ……はーっ、はーっ!』
「「「「「っっ!!??」」」」」
奇声を叫ぶカリブラの姿が映し出され、人とは思えぬ奇声に誰もが驚いた。そして、叫び疲れて息を切らしながらも顔を真っ赤にして憎悪を込めた目でアスーナとバニアを凝視するカリブラの姿にも見ている誰もが驚かされる。
肝心のカリブラ自身もそうだった。怒りが吹き飛ぶほどに。
(……な、なんだこれ? あれが僕だというのか?)
『よ、よくも、そ、そこまで……み、醜いなんて、ゆ、許さない……! こ、殺し……いや、死んだほうがマシだと思うくらいの恥辱を与えてやるぞぉっ!』
普段自分がどのように見られているのか分からないカリブラだったが、奇声を叫んで怒り狂う自分の姿に愕然としてしまった。あの時の自分がこんな姿だったなんて……。
『こんなことで取り乱して感情が爆発するなんて、本当に幼稚すぎますね』
『全く~、貴族になっちゃいけない男~。まして嫡男なんて世も末~』
『だ、黙れ黙れ黙れぇっ! お前らぁっ、女どもを顔以外殴ってやれ!』
アスーナとバニアの罵倒とカリブラの怒号。映し出されるカリブラとは違い、今ここにいるカリブラは目を丸くするばかりだった。あまりにもあんまりな自分の姿に怒るどころではなかった。
「なんてことを……顔以外殴れだと?」
「……下劣な考え方、不快だ」
もはや今される罵倒すら己の耳に入ってもカリブラは動じることができなかった。いや、反論もできなくなっていたのだ。
カリブラ自身ですら、アスーナとバニアの言う通りだと思い始めてしまったのだから。
『ははははは! アスーナぁ! 泣け! 喚け! 恐怖しろ! そして『助けてください』と叫べぇ!』
(……もう、止めてくれ……)
『いい加減余裕ぶるのも大概にしろよ! お前は今から傷物になるんだよぉ!』
「もうやめろぉぉぉぉぉ!」
思わずカリブラは叫んだ。怒りや憎しみからではなく、羞恥と絶望からの叫びであった。己の恥ずかしい姿をこれ以上見せたくなくて、そして同じくらいに醜い自分の姿を自分で見たくなかったから。
「もうやめろ! 止めてくれ! もうこれ以上はいいだろ!」
「そうだな。ここから先は機密事項だ」
「……え?」
王太子は投影機を止めた。




