おまけ9 元侯爵令息の末路1
近衛兵に連れて行かれたカリブラは取り巻きたちと一緒に牢屋に入れられた。処罰を決める間に逃げられないようにするためだ。
「なんで……なんでこんなことに……」
カリブラは虚ろな目で絶望の顔でカリブラはそう呟いたが、それを聞いた取り巻きたちは怒りをあらわにする。
「ふざけるなよ! あんたがこんな計画を企てたのが悪いんだろうが! 何が完璧でいい思いができる計画だよ! 大失敗じゃねえか!」
「そうだよ! なんだよあの二人組はよ! 明らかに強い護衛がいるなんて聞いてねえぞ!」
「ドーラ……ルギリ……」
「近衛兵が俺たちを連行していったってことは……衛兵を買収する意味もなかったわけだ。はっ! 安心して損したよ。こんな計画に乗った俺もバカだったがな!」
「あ、あんたのせいで……俺の人生がぁぁぁぁぁ!」
「ローボル……トテマ……」
カリブラに怒り狂う取り巻きたち。彼らの普段見ない怒りの形相、それが自分に向けられていると分かるカリブラは恐怖した。今まで媚びへつらうだけだった取り巻きたちの変化さえカリブラは受け入れられないのだ。
(本当にどうしてだよ……僕はただ……アスーナともう一度婚約したくて、あの女に復讐したかっただけ……それでこんなことになるなんて……)
アスーナたちに負けて、牢屋に入れられて従っていた取り巻きたちに罵倒される。カリブラにとっては想像もできなかった悪夢だ。
入れられた牢屋が別々だったことだけが幸いだったことにカリブラは気づいてもいない。同じ牢屋だったら一方的に暴力を振るわれていたのだから。
そして、カリブラの悪夢はまだ終わらない。このまま地獄まで続くのだった。
◇
カリブラと取り巻きたちの処罰が決めるため、極めて早い段階で貴族裁判が開かれた。それも王宮内で重罪人を取り調べるための厳重な部屋に。
(こんなところに僕が来ることになるなんて……)
石造りで出入り口は一つだけ、窓すら無い。見張りがいれば完全に逃げ場が無いと言ってもいい部屋だ。こんなところに連れて行かれたという事実だけでもカリブラは目眩しそうだった。
ただ連れてこられたのはカリブラたちだけではなかった。
「父上! 母上!」
「親父!」
「兄上!」
「パパ!」
なんと取り巻きたちの家族までもが後から連れてこられたのだ。正確に言えば、取り巻きたちの家の当主かそれに近い人たちだろう。つまり、保護者よりも家の最高責任者を呼ばれたわけだ。
(アイツラの親が呼ばれたということは、僕の両親も来てくれるに違いない。つまり、まだのぞみはあるということか!)
親が来てくれると聞いてカリブラは顔が笑みでほころぶ。まだ希望があるのだと思ったのだ。両親に助けられて自分の罪を軽くするか無かったことにしてくれると。
(僕の父上は侯爵だ。その権力を使えばきっとなんとでもなるんだ! きっとそうなるに違いない! ははっ、なんだ。僕は助かるんじゃないか!)
両親が自分を助けてくれるに違いないと確信したカリブラは気が楽になる。そしてすぐに裁判が終わった後はどうしようかなどと考え始める。例えば、アスーナとバニアに今度こそ復讐してやろうかと。
「母上!」
だが、最後に現れたのはカリブラの母・マキナだけで父親の姿はなかった。その母親の姿を見たカリブラは、笑みを浮かべた顔を一瞬で崩した。
(何故、母上だけなんだ? 父上は一緒じゃないのか? そもそも母上はどうして他の親たちと同じ顔色が悪いんだ?)
マキナの顔は真っ青だった。その顔色の悪さは取り巻きの親たちよりも悪くすら見える。それもそのはず、カリブラの父である当主は体を悪くして臥せっているのだから。




