第41話 醜い男
「やあやあアスーナにバニア嬢。待ちわびていたよ……」
「……カリブラ様?」
「ああそうだ。お前の伴侶となるべき男さ」
アスーナの顔が見えた時、カリブラは笑顔で声をかける。アスーナが今まで見たことがないほど下卑た笑顔、嫌でも付き合いの長かったアスーナは思わず顔をしかめた。
「……ソルティアが怪我をして保健室に運ばれたとのことでバニアと一緒に来たのですが?」
「ああ、ソルティアなら我が屋敷にいるよ。怪我をしたのは事実だから屋敷の一室にこもってるけどね」
「――っ!? ……私達を保健室に呼ぶことが目的だったと?」
「その通りさ。お前が真に結ばれるべき相手はこの僕なのにお前は拒んだ。ハラドなんかに乗り換えて僕を捨てようなんて生意気なことをするから少し強引な手に出ると決めたんだ。僕のものになるしかならないようにね」
カリブラが合図すると六人の男爵令息がカリブラのように下卑た顔で姿を見せる。彼らがカリブラの取り巻きであるとアスーナはすぐに理解した。カリブラと取り巻きたちが何をしたいのかも。
「大丈夫、僕はすでに男女の営みくらい知識にあるんだ」
「女を無理やり組み敷くおつもりですか? 私はともかくバニアは関係ないでしょう?」
「悪く思うなよ? 元々お前が悪いんだ。元婚約者なのに、この僕が寄りを戻してやろうというのに、ハラドと仲良くなりやがって! それにその女も許せるわけ無いんだよ! 伯爵令嬢の分際で僕をこの僕を馬鹿にしてコケにして恥をかけさせやがって! この屈辱を晴らすためにもその女には恥辱を味わってもらわないといけないんだよ!」
笑顔から一転して醜悪な顔で身勝手な言い分を叫ぶカリブラ。あまりの豹変ぶりにアスーナとバニアも息を呑むが、アスーナは押し黙ることなくカリブラを睨みながら言い返す。
「醜い」
「何?」
「貴方は実に醜い。自分の思い通りにならないことをすぐ人のせいにして自分に非がないと喚いて反省もしない。挙げ句には、こうして力尽くで解決しようとまで……こんな醜くて見苦しくてくだらない男と婚約破棄できてよかったです」
「なっ、んなっ!?」
アスーナの痛烈な批判と侮蔑を込めた視線。それに続くようにバニアも煽るような口調で言い返す。
「本当よね~。醜い~。自分のことしか考えられない頭だから他人に拒絶される理由がわからないんだね~。……本当に最悪な男。典型的なクズ」
「――~~っ!?」
こんな状況でも取り乱すことなく冷静なばかりか、カリブラを醜いと罵るアスーナとバニアの二人。彼女たちの態度に取り巻きたちのほうが驚き動揺するが、カリブラの方はコケにされたと理解したために激しく激昂するのであった。
「ふ、ふざ……ふざけ、ふざけんな、うぐわあああああ、ぬぐあああああ……はーっ、はーっ!」
((うわぁ、気持ち悪い……))
あまりの怒りのあまり言葉にもならない奇声を叫ぶカリブラ。叫び疲れて息を切らす姿にアスーナとバニアも取り巻きの者たちさえも気味悪がった。




