第40話 下卑た計画
学園の保健室にてカリブラが待ち構えていた。貴族の学園だけあって保健室も教室並みに広い。そんな場所でカリブラは男爵・子爵令息六人を取り巻き兼護衛として側において、他の取り巻きが二人の令嬢が連れてやってくるのを待ちわびていた。
その二人の令嬢とは、元婚約者のアスーナとその親友バニアのことだ。
(アスーナ……お前が悪いんだ。元婚約者のくせにこの僕を拒絶するなんて……ハラドと婚約してすぐに仲良くなるなんて薄情すぎるじゃないか……! あの浮気者が!)
カリブラはアスーナに婚約者に戻ってもらおうと婚約の交換を提案したのに断られたことが許せなかった。挙げ句には嫌いだったと言われ馬鹿だと思っていたとまで言われたことで憎悪すら抱いたのだ。だからこそ、何が何でも自分のものにしてやろうと決心した。強硬手段に出てでも、自分のもの戻してしてやろうと。
ただ、カリブラが強硬手段に出た理由はアスーナだけではない。実は、彼女の親友であるもう一人の令嬢こそが最大の理由だった。
(許せないのはアスーナだけじゃない……バニア・モタス……伯爵令嬢の分際でこの僕を辱めたこと後悔させてやる! 僕が味わった屈辱を何倍にも返してやるんだ!)
バニアにコケにされた後、激昂したカリブラは何故かその場で気を失って寝てしまった。教師に嫌そうに運ばれた挙げ句、起きた時に寝ぼけて恥ずかしい言葉を口にしたために恥もかいた。授業にも遅れてしまったことで周りには『寝坊令息』などという屈辱的なあだ名が付けられてしまったのだ。
(ゲムデス侯爵家嫡男であるこの僕が寝坊令息と呼ばれるなど許されない! 絶対に報いを与えてやるんだ! 多くの男どもの慰みものとしてな!)
その原因はバニアだと考えるカリブラは、アスーナ以上に許せないと思っている。令嬢として最大の屈辱を与えないと気がすまない。それが強硬手段に出た最大の理由だ。取り巻きたちと共にバニアを辱め、力づくで真っ当な結婚をできなくしてしまおうというわけだ。
(幸い、あの二人は美人だから僕は存分に楽しめるわけだ! 取り巻きの男達も同じ意見みたいだしな!)
カリブラが取り巻きを集めたのはアスーナとバニアを抵抗できないようにするためだ。男がいくらか集めれば力弱い令嬢二人など簡単に組み敷く事ができる。保健室を選んだのはベッドがあるから行為に及びやすいからだ。
(保健室の教師には脅して出ていってもらったし、一部の衛兵は買収した。万が一失敗しても言い訳と金を積めばどうとでもなる。それ以前に失敗などあり得ない! くくく、我ながら完璧な作戦だ!)
自分の企てた作戦に酔いしれながら下卑た笑みを浮かべるカリブラは、今か今かとアスーナとバニアを待ちわびる。そばにいる取り巻きの男達でさえ最低な計画だと思っているのに、カリブラは一切の罪悪感を抱かないのだ。
そして、待っていると保健室の扉が開かれて二人の令嬢が入ってきた。アスーナとバニアの二人だけだ。




