第39話 仮病の裏の計画
あれから3日、カリブラたちが婚約者の交換を提案して断られてから3日が過ぎた。その間にカリブラとソルティアは学園を休んでいた。本人たちは風邪だというが、ほとんどの生徒と教師からは仮病だと疑われている。しでかしたことがあまりにも恥ずかしいから学園に顔が出せないのだろうと誰もが思うものだ。
この二人もカリブラとソルティアが仮病だと確信している。アスーナとバニアだ。
「このまま退学すればいいんだけどね~」
「お父様も侯爵夫人もよほどのことがない限りそこまでは思わないでしょうね。貴族のメンツがあるし」
「でも、いつまで仮病を続けるつもりかしらね。本当は不穏な動きをしてるみたいだし」
「そうよね」
ハラドとアスーナ、それにバニアの三人はカリブラの動きを警戒していた。人づてにカリブラ本人やゲムデス侯爵家の屋敷を調べていたのだが案の定、カリブラは密かに屋敷を出て下級貴族の令息たちを集めていたのだ。カリブラの取り巻きをしていた男爵家の次男・三男が二・三人ほど目撃されていて、聞くに堪えない計画を企てていたようだった。
「……今日、仕掛けてくるみたいね」
「ええ、私はカリブラ様の性格は分かってたつもりだったけど上辺だけだったみたい。まさか、女の尊厳を踏みにじる手段から出るなんて……」
アスーナは顔をしかめる。人づてとは言え、カリブラの計画を知った時はどうしようもなく最悪の気分になった。あまりの卑劣な計画に恐怖すら抱いた。同時に強い怒りも。
だからこそ、完膚なきまで叩き潰してやろうと誓ったのだ。ハラドやバニアの反対を押し切る形で。
「アスーナ、私はいいけど貴女は良かったの? カリブラのプライドを打ち砕くためにわざわざ回りくどい手段を選ぶなんて。私だけで、」
「それでは意味がないの。カリブラ様が一番軽んじているのが私なの。軽んじる相手に負けることこそがカリブラ様みたいな男の最大の屈辱になる……私が一番適任なの」
「……たしかにね。でも、それで貴女に危険が及ぶようでは元も子もないわ。今からでも止めない?」
「大丈夫よ。私の役目はカリブラ様を糾弾するだけだから。証拠も揃ってるし、後は証人を捕まえるだけだから。バニアこそ危ない目には、」
「カリブラの最大の目的は私じゃん? あの男が恥をかいた元凶だから関わるしかないでしょ? 問題ないよ」
カリブラを追い詰めるための証拠は揃っている。後はカリブラも認めざるを得ない証人をそろえるだけ。ただ、集めた証拠だけでも十分カリブラを社会的に追い詰めることができるのだが、アスーナの考えうる証人を揃えれば精神面でもカリブラを苦しめることができるというのだ。
(精神的苦痛でも与えないとカリブラ様は反省もしなさそうだし……)
あのカリブラに精神的苦痛を与えるには相当な手段が必要だ。元婚約者だったアスーナが考えたその方法は、アスーナが中心になってカリブラを追い詰めることなのだ。
「……あら?」
教室の扉が乱暴に開かれる。すると、見覚えのない下級貴族の令息二人が入ってきた。そして、キョロキョロと教室を見回して、アスーナとバニアを見るやいなや迫りくるのだ。
「……どうやら、動き出したみたいね」
「もう後戻りはできないってことね。私もとっくに覚悟を決めてるわ」
アスーナとバニアは迫りくる二人の令息に身構えた。




