第34話 馬鹿な妹
無駄にプライドの高いカリブラが激怒するのは当然だったが、アスーナは全く動じない。隣にハラドがいるからだ。カリブラよりもずっと頼もしい男がそばにいるのだから、カリブラが激昂しようとも恐れることはないのだ。
「酷いですわお姉様！ カリブラ様に非があるのは分かりますが、何も婚約を戻したくないなんて嘘をつかなくても言い、」
「カリブラに関しては僕も同意見だ。そして、それは君も似たようなものだよソルティア嬢」
「え？」
「ハラド！ お前まで！」
姉を非難するソルティアの声を遮って、ハラドもまた正直な気持ちを口にする。自分に色目をかけようとするであろうソルティアを糾弾する意味も込めて。
「カリブラ、ちょっと黙ってろ」
「ああん！？」
「……カリブラの婚約者となってからソルティア嬢は侯爵家に住み込んで散財放題と聞く。貴族の常識的に婚約してすぐにそんなことはあり得ない行動だ。婚約したからと言って嫁入り前の女が他貴族の屋敷で我が物顔で振る舞うというのは非常識なことだよね。ソルティア嬢はあまりにも教育が行き届いていないことが窺える。そのような女性など俺は非常に軽蔑するよ。アスーナという最高の姉がいながら何も学ばなかった証拠だ」
「な、なんですって！？」
ソルティアは自分がハラドに悪く言われていることに驚いた。ハラドを口説けば姉から奪えると思っていたのに、婚約の交換を断られるだけでなく、軽蔑すると言われるとは思ってもいなかったのだ。
「ひ、ひどいですわ！ 軽蔑するなんて嘘を、」
「そもそも姉から婚約者を譲られておいて、その姉と婚約者を交換しましょうだなんて……人を軽んじるにもほどがある。カリブラと同じかそれ以上に自己中心的で精神的に幼すぎる。伯爵令嬢という立場にふさわしくもないな。君みたいな女性なんていらないよ」
「か、カリブラ様と同じかそれ以上！？ そんな！ こんなに可愛い私がほしいと思わないのですか！？」
泣き真似しようとした直後にも言葉を遮られる始末。挙げ句にはカリブラと同じかそれ以上に馬鹿みたいだと言われてソルティアも声を荒げた。それでも、ハラドは容赦しない。
「顔が可愛いだけの女性なんていくらでもいる。君はそれだけだ。いや、性格に問題がありすぎるから下回るという評価が妥当だね」
「～～～～っ！？」
ついにソルティアはカリブラのように顔を真っ赤に染める。だが、流石に公爵令息相手に怒鳴る度胸はない。その代わりに悔しそうにアスーナを睨みつけて言う。
「……お姉様は、思ったよりも男に媚びるのが上手いのですね。知りませんでしたわ……」
「今度は私にそういう言い方をするのね。言っておくけど、私はそのままの私でハラド様に接しているの。貴女みたいに欲望のままに振る舞っているわけじゃないけどね」
「ここでも私に小言でも言うわけ！？ そんなふうに私のことを馬鹿にして！」
「いや、実際馬鹿だろ」
「「「！？」」」
ソルティアがアスーナに噛みつかんばかりの罵詈雑言を吐こうとした直後、さっきまで黙って聞いていたカリブラが口を挟んできた。
