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第17話 過去が悔やまれる

「は、母上、もうそれくらいでいいでしょ? ソルティアはこういうのは初めてだから、」


「そうだとしても教養がなってないのは目に見えています! お前の婚約者がアスーナ嬢のままならどれだけよかったものか……」



息子の馬鹿さ加減にマキナは顔を手で覆うほど嘆いた。しかし、母の嘆く姿を見てもカリブラは自分が間違っていないとばかりに反論する。



「何を言うんです! あの女はドッキリを仕掛けただけで僕との婚約を破棄するような馬鹿なんですよ!」


「馬鹿はお前たちの方です! アスーナ嬢の価値も自分たちの愚行も分からないなんて!」


「そんな……お姉様よりも私のほうが可愛いのに……」


「だから可愛さなど関係ないでしょう!」



マキナは、未だに自分たちに非がないと思い込むバカ息子と新しい婚約者の喚き散らす様子からカリブラに当主の立場は無理だと悟った。



(やはりカリブラに当主は務まらない。だからこそアスーナ嬢に期待していたのに、こんなことになってしまうなんて……)



マキナは、夫のゲムデス侯爵もそうだが子供の頃のカリブラのことを甘やかしてしまっていた。夫の侯爵は病弱だったために生まれてくる子供もそうではないかと心配していたのだが、カリブラは至って健康体に育ったために夫婦共々嬉しくて可愛がったのだ。母と同じ髪、父親そっくりの顔つきの息子であるがゆえに。


今では、その過去が悔やまれる。結果的にカリブラは我儘で馬鹿でどうしようもない男になった。嫡男から外すしかないと思うほどに。



(いいえ、まだ間に合うかもしれない。どうにかアスーナ嬢の心を引き止めれば……でもそうなるとグラファイト公爵親子はどうすれば……)



アスーナ嬢がグラファイト公爵令息に見初められたと聞いた時は、あまりにも急すぎるとは思ったがありえないことではないとも考えた。アスーナは貴族令嬢としてはほぼ完璧に近いと言われる令嬢だ。彼女がフリーになったと聞けば婚約破棄された令嬢だとしても男なら喉から手が出るほどほしいことだろう。



(……ハラド・グラファイト公爵令息は気さくでカリブラと違って女性を大切にする紳士的な男らしい。それならアスーナ嬢の意志を重んじてくれるかも……)


「カリブラ! やはり、ソルティア嬢との婚約は認めません。今からでもアスーナ嬢に頭を下げて婚約を元に戻すように説得してきなさい!」


「そんな! 義母様!」


「嫌です! もう皆にも言いふらしたのに!」


「お黙りなさい! これは命令…………今なんて言いました?」



マキナは、ソルティアの義母様発言を咎めるのも無視してカリブラに命令しようとして言葉を途中で止めた。『皆に言いふらした』というカリブラの発言に嫌な予感がしたのだ。


そして、カリブラの次の発言でその予感は的中した。


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