灯野さん1
灯野さんのことは良くって程じゃないけど知っていた。
灯野さんは中学ではあんまり人とつるんでるところを見たことはない。
でも友人も多少はいたみたいだったし、一人でいてもなんだか楽しそうに見えた。
ホントのことなんて分からないけど。
彼女は私と全然違う。
友人は選んでいる節が少しあって、気に入った人としか話してなかったと思う。
彼女がそういう人といるときは楽しそうで、どんなことを話してるんだろうって考えてた。
彼女は一人でいるのも気にしてなさそうだった。
本を読んだり勉強したり、別のことでもやりたいことをいつもやっているように見えた。
ほとんど自分の妄想だって分かってる。
彼女が友人といて極まれにでも、私みたいにつまらなさや虚無感を抱いたとしても、
きっと露骨にそれを表に出しはしないだろうし。
私みたいに、たはーっと笑ってごまかしたりしないだけで、似たようなことをしてるかもしれないし。
でも、ほんの少し、彼女の真似をしてみたいような心持もあったりした。
だから初めて一人で図書館に行って、教科書を開いて、そして彼女に出会った。
出会ったっていうのはおかしい。
彼女は私のことなんて気づいてすらないだろうしね。
でも、彼女があんまり人に見せないであろう(そして多分皆が思っているよりもおしゃれな)私服を着ていて、私だけがそれを知っているかもしれないことが、微かな喜びだった。
そんなことを半年ちょっと続けて、よくわからないうちに思っていたより良い高校を勧められて、
入試会場で灯野さんがいた。
彼女と同じ高校に受かって、同じクラスになって、嬉しいのか戸惑っているのかよくわからない。
それは今もほとんど変わらないけれど。
灯野さんの新入生代表の言葉の声は今でも思い出せる。
澄んでいて、堂々としていた。
中学の友人が彼女をちょっと地味な真面目ちゃんと評したけれどそれはほとんど正しくない。
もしカーストなどというものがあったとしたら、彼女はきっと私たちの下位だろう。
そういう無意識の意識が認識を歪めていた。
彼女はカーストなんてものを外れた所にいる。
中学生だった私の友人も私も、そんな簡単なことに気づいていなかったんだって、今なら思う。
そんな灯野さんにちょっとでも関わってみたかったけど、彼女には彼女の、私には私の人間関係があってそうもいかない。
そんな言い訳をしていたら早くも一年の一学期も終わりかけて、そんな私は一つ願掛けのようなものをした。
もし、灯野さん見せても引かれないくらい、人並みのテスト結果が出せたら、彼女に話しかけよう、と。
そして灯野さんに勉強のことにでも相談にのって、何かのきっかけになれば上出来だと思った。
彼女が納得しやすい理由もあれこれ考えたけどあまり意味はなかった気もする。
でも、ともかくこうして今日も灯野さん家に行けるようになった。