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香山さん  作者: 儡絡弄
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香山さんと高一の夏2

結局うだうだと頼み込む香山さんに負けて了承してしまった。 


香山さんが放課後、我が家に来ることになっている。


自習室とか図書館では声を出して教えられない。


ああいう所で話している人たちのうざさは私が良く知っている。


だから、出来る限り避けるべきだ。




部屋をかるく片付けて、埃りが落ちてないか、日よけと埃よけを兼ねた本棚のブラインドがしっかり降りてるかとかを確かめる。


ピーンポーンというちょっと間の抜けたチャイム音がして、香山さんが現れた。


広くもない二階の自室に通すと、香山さんはキョロキョロ興味深げに私の部屋を見渡してる。


取り敢えずローテーブルを挟んでベッドの向かいに座らせた。


「これ、授業料というか賄賂みたいな?」


菓子類の詰まったコンビニ袋を渡してくる。賄賂て。


「紅茶とカフェオレと苦めのコーヒーならどれがいい?インスタントだけど。」


「じゃあ、カフェオレで。」


キッチンのポットでお湯をいれて、二人分のカフェオレをトレイに載せて部屋に戻る。


「これ、大学の過去問じゃん、早いね。」


相変わらず私の部屋をキョロキョロしてる香山さんに話しかけられた。


「ゴールを知っておきたいと思って。まだ手も足も出ないけど。」


「ふーん、やっぱ灯野さんってすごいね。」


「それはどうも。」


「灯野さんってさ」


「うん。」


「思ったよりサバサバ系?な感じ?」


「多分違うでしょ、初めて言われた。」


「へぇー、女子から人気ありそう。」


「は?」


「いや、なんでも。ジョーク、ジョーク。」


たはーと彼女は笑う。


その笑い方、なんかイラっとくから不思議だ。


「で、何用で来たの?同級生に家庭教師?とかおかしくない?」


「じゃあ、こっから本題。」


私が雑談に非協力的と悟ると話をすすめた。


「私ってさ、中学だとそこそこ成績良かったじゃん、中三の終わり頃とか。」


「へぇー。」


知らなかった、は流石に失礼かと思って飲み込んだ。


「で、高校で成績下がったから親が心配しててさ。」


「それで私に何とかして欲しいと?」


「まあだいたいそんな感じ。」


「塾とか予備校で良いんじゃないの?」


「それは、うーん。」


まあ、金銭的なこともあるしそんな簡単なことでもないのかもしれない。


予備校は使い方にもよるが年数十万とか普通らしいし。


普段同じ制服を着せられ、同じ空間に閉じ込められているから勘違いしそうになるけれど、私たちは平等でも対等でもなんでもない。


制服を剥いで一歩踏み込んだ家庭のことなど知りようもないし知りたくもない。


「やっぱ今の無しで。」


私は先程の提案を引っ込めた。


「ああ、そう。それで灯野さんって入学式で生徒代表やってたから入試の首席さんってことでしょ。」


「そうね。」


「で、うちの親もそれを知ってる。」


「それで?」


「うん、それで私は親を安心させつつ勉強もサボりたいから灯野さんに勉強を教えてもらってるふりをする。」


「うん?」


「つまり、微妙な成績の打開策として、首席のブランドがある灯野さんに勉強教えてもらうっていうのを親に提示する。

解決策さえ出しとけば頭ごなしに怒られないで済むでしょ?あと、塾に入れって言われるのを先送りに出来るかもしれないし。

取り敢えず夏休みまでの何日か、今日みたいにここで時間潰させてっていうのが私のお願い。」


「なるほど?」


まあ分からないでもない。友達と勉強会やるだと遊んでるだけにしか見えないけど大して親しくもないし、親御さんに勉強できると思われてそうな私が適任だったんだろう。


ついでに中学が同じだったから家もそこそこ近いはずだ。


「でもそれなら話だけにしてさ、実際に来なくても良いよね?」


「嘘をつくなら真実を混ぜたいじゃん。」


とにかく、私が家庭の金銭的事情を慮ったのが全くの無駄だったことは分かった。


あんまり意味のあることには思えないけれど、断るほどでもないだろう。


「まあいいや、そのお願い聞いてあげる。」


「ホント、ありがと!良かったらなんかお礼になんかする。大した事できないけど。」


「でも私からも提案がある。」


「なに?」


「私が本当に勉強見てあげる。人に教えたら自分にも多少メリットあるらしいし。対症療法より根本治療の方が建設的でしょ。あとお礼に私の宿題を香山さんにやってもらいたい。」


「勉強見てくれるのは有難いけど、宿題は灯野さん自分でできるからお礼にならなくない?」


「宿題は時間の無駄だから外注したいの。」


「まあ、別にそれくらいなら良いけどさ。」


「それに香山さんにとってはきっと意味がある。」


「なんで?」


「香山さんは中間層だからうちの学校で一番のボリュームゾーンにいるの。だから学校の宿題適正は一番高いの。それを人の二倍やるんだから効果ありそうでしょ?」


取り敢えずにこっと笑顔を向けておく。


「灯野さん!」


「うん?」

流石に無理があったかもしれない。香山さんも多分そこまでアホじゃない。


「やっぱり、灯野さんって天才でしょ‼」


「あ、うん。」


チョロ。まあこれで学生の三大義務のうち一つが軽減された。


あとの二つは出席と学校行事とかだろうか。くだらないことけど。


こんな訳で香山さんが夏休みまでの二週間、うちを訪ねてくることとなった。

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