発案者と今後の可能性
「お、起きたか?」
「っ!?」
僕の姿を見た瞬間、キリアンという男は息を呑んだ。
「さて……貴様は状況が分からないだろうから、簡単に説明してやろう。まず、貴様等の駆るヴィーヴィルは、二十匹全て撃ち落とした」
そう告げた僕を、キリアンという男は睨みつけると。
「……私の仲間……飛竜隊の者達はどうした……?」
……へえ、目が覚めたばかりでよく分からない状況下で、意外と冷静じゃないか。
だからって、そんなことは別に関係ないんだけど。
「貴様の仲間なら、隣で寝ているぞ」
「っ!? ……あ、ああ……っ」
僕の答えを聞いて慌てて振り向くキリアンという男。
だが、瀕死の二人と共に積み上げられた遺体を見て、声を失っていた。
「それで……今度は僕が、貴様に聞きたいことがあるんだが、飛竜隊というのはオルレアン帝国には他にもいるのか?」
「…………………………」
未だに放心状態のキリアンという男に声を掛けるが、こちらを見ようともせず返事もない。
とはいえ、単に呆けている、というわけでもなさそうだ。
「まだタワイフ軍とオルレアン軍の海岸線での戦闘は続いていてね。こっちも暇じゃないんだよ。だから、さっさと答えてくれないかな」
「…………………………」
キリアンという男は顔を背け、拒否する姿勢を見せる。
ハア……やれやれ、面倒だなあ。
「おい、この寝ている男を殺せ」
「はっ!」
「っ!? や、やめろ!」
デルガド大尉に指示をすると、キリアンという男が慌てて叫んだ。
「やめるかどうかは貴様次第だ。助けてほしければ、素直に答えろ」
忌々しげに睨んでくるが、知ったことじゃない。
答えなければ、殺すだけだ。
「……飛竜隊は、私達二十人だけだ」
「へえー、そうか。じゃあ、貴様等を倒した時点で、空から攻撃してくることはないってことだな?」
「…………………………」
「やれ」
「ま、待て! それはこの私も分からないんだ!」
「? 分からないというのは、何が分からないんだ?」
「そ、それはもちろん、私達以外に空から攻撃を行う者がいるかどうかだ」
必死で答えるキリアンという男の様子を見るが、どうやら本当に分からないみたいだ。
だが、分からないということは、可能性として否定できない何かを知っているってことだ。
……ちょっと質問の仕方を変えてみるか。
「分かった。じゃあ、貴様等と同じように飛竜隊を編成することは可能か?」
「…………………………」
キリアンという男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、目を伏せた。
というかコイツ、隠すのが下手だな。
その時。
「ガハッ! ごぽ……」
突然、ディディエという男が咳き込んだかと思うと、口から血の泡を吹いた。
「あーあ。このまま手当てしないと、すぐに死んでしまうかもな。ちなみに、その隣の女も」
「っ!? な、なら早く手当を!」
「貴様が僕の質問に全て答えてからだ。そうすれば、楽にしてやるよ」
必死に訴えるキリアンという男に、僕は冷たく言い放つ。
すると、さっきまでとは打って変わり、キリアンという男は全てを語ってくれた。
元々、竜遣いの一族としてこの男はその秘術を身に着けており、一族の反対を押し切ってオルレアン軍に入ったこと。
本来ならば竜遣いの一族のみが使える秘術を、研究の末に普通の人間にも使える方法を発見したこと。
それを実践し、キリアンという男と普通の人間からなる飛竜隊を編成したこと。
「……ふうん。ということは、別に貴様がいなくてもオルレアン帝国は竜を使役することができる、そういうことなんだな?」
「す、少し違う。普通の人間でも竜を使役できるように、まず私が手懐けてから他の者に引き渡すんだ。それから、徐々に普通の人間と竜が信頼関係を結ぶことで、使役が可能になる」
なるほど、ね……つまり、この男さえいなければ、オルレアン帝国は竜を使役することができず、たちまち航空戦力を失うってことか。
「だけど、さっき貴様は『私達以外に空から攻撃を行う者がいるかどうか分からない』と言っていたじゃないか。これって矛盾していないか?」
「そ、それは、可能性として私以外のアルベルニ族の者が、同じようにオルレアン帝国に力を貸す可能性があるからだ」
「ああー、そういうことか」
ふむ……どこまで本当なのかは分からないが、ある程度は情報をつかめたぞ。
「最後の質問だ。そもそも、空から戦闘を行うことを考え出したのは、貴様か?」
「い、いや、私ではなく筆頭大臣のミシェル=バルリエ様だ」
……まさか、オルレアン帝国のナンバー二が発案者とはね。
これは、今後のことを考えて派手にしたほうがいいな。
「分かった、ありがとう」
「っ! な、なら早くディディエとマリエルの治療を……!」
「そうだね、すぐ楽にしてあげるよ」
そう告げて、僕は手を挙げて合図すると。
――ぐぎり。
ディディエという男は、デルガド大尉の剣によって無理やり首を押し斬られ、頭部がごろん、と転がった。
「ああああああああ!?」
その光景に、キリアンという男は意味不明な声を上げる。
だけど、それだけでは終わらずに。
――ぐちゃ。
なんと、カサンドラ准尉が傍に控えていた竜騎兵から受け取ったハンマーで、女兵士の頭を叩き潰してしまった。
それを見て僕は、ラバル伍長の一件を思い出す。
『……ベル君、あんまり私に遠慮するんはやめて。私かて覚悟して軍人になったんやさかい、補佐官としてやるべきことはちゃんとするよ。たとえそれが、私の手を汚すことやったとしても』
ハア……本当に、ここでそれを実行しなくてもいいのに……。
僕は無表情に息絶えた女兵士を見下ろすカサンドラ准尉を見て、溜息を吐いた。
「ああ……こんな……こんな……話が違うじゃないかあ……っ」
「何を言っている。僕達は約束どおり、二人を楽にしてやったじゃないか」
血の涙を零しながら、女兵士の屍体を抱きしめるキリアンという男。
その様子を見つめながら、僕は口の端を吊り上げて一丁の拳銃を取り出すと。
――タアン。
乾いた音がヴィレント山頂にこだまし、一人の竜遣いは額から血を流して女兵士に覆いかぶさった。
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