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夢の終わり ※キリアン=シルベストル視点

■キリアン=シルベストル視点


「飛竜隊! 出撃する!」

「「「「「おおおおお――――――――!」」」」」


 いよいよ私達は初陣を飾るべく、ヴィレント山脈へ向けて飛び立った。


 今回は先日と違い海上から迂回する必要もないので、ヴィレント山脈まで一直線。

 この速度なら、ものの十分で目標に到着できるだろう。


 そして。


「っ!? まずいぞ!」


 眼下で行われている戦闘を見て、私は思わず叫んだ。

 確かに司令官の言うとおり、このままではいずれオルレアン軍が潰走してしまうのは間違いない。

 それほど、ヴィレント山脈に陣取るタワイフ軍の優勢は明らかだった。


「飛竜隊、一気に高度を上げて、ヴィレント山脈のタワイフ軍の上空を取る! 私に続け!」


 私は一気にヴィレント山頂を目指し、ブリギッドと共に上昇する。

 他の面々も、私から少し遅れて同じように上昇した。


「よし! ありったけの爆薬と油、それに火種を連中にお見舞いしてやれ!」

「おお! 任せろ!」


 私の言葉に応えるように、ディディエが真っ先に爆薬を投下……っ!?


「ハハハハハ! アイツ等、コッチに大砲を向けてやがる! 無駄な努力もいいとこだろ!」


 そう……タワイフ軍は、こちらへ大砲をこちらへと真っ直ぐに向けていた。

 ただ、その大砲は通常のものよりも砲身が倍以上も長く、台座も通常と違ってレールのようなものがあり、異様な雰囲気があった。


 とはいえ、ディディエの言うように、ここはタワイフの部隊から距離にして五百メートル上空にいる。

 だから、いくらあの大砲が通常のものと形状が違っていたとしても、ここまで砲弾が届くなんてことは絶対にあり得ない。


 なのに。


「……この不安はなんだ?」


 私は目に見えないプレッシャーに押しつぶされそうになり、思わず胸倉を握りしめた。


 その時。


 ――ドン、ドン、ドン。


「え……?」


 その見慣れない大砲から放たれた砲弾が発射され、空を切るすさまじい音と同時に四体のヴィーヴィルと兵士が血(まみ)れになってヴィレント山脈へと落下していった。


「こ、これはどういうことだ!?」


 混乱のあまり私は思わず叫ぶが、本当は答えなんて分かっている。

 あの(・・)大砲から発射された砲弾が、あろうことかここまで届き、ヴィーヴィルを撃墜したのだ。


「飛竜隊! 今すぐ上昇してこの空域から離脱する……っ!?」


 ――ドン。


「ゲ……ッ」

『グオ……』


 慌ててブリギッドの首を返して上昇するが、ディディエやマリエルはともかく、他の兵士達は私のようにヴィーヴィルを十全に操るまでには至っていない。

 空域から離脱できなかったヴィーヴィルが続けて放たれた砲弾によって、先程と同じように悲鳴を上げる間もなく地上へと落下した。


「クソッ!」

「っ!? ディディエ!」


 この状況に見かねたディディエが、タワイフの砲兵部隊へと急降下していく。

 確かにヴィーヴィルの飛行性能なら、いくらあの大砲がとんでもない代物だとしても、ディディエに狙いを定めるのは不可能。

 何より、この飛竜隊で私の次にヴィーヴィルを操ることができるのは、彼なのだから。


 だが。


 ――ドガガガガガガガガガガガガッッッ!


『グゲゲゲゲゲガゲガギギッッッ!?』


 ディディエの操るヴィーヴィルが悲鳴を上げながら、まるで操り人形のようにおかしな動きを見せ、血を噴き出しながら墜落した。


「……キリアン、あれ」

「っ!?」


 大砲と大砲の隙間に隠れるように、大砲と銃の中間といったような大きさの銃が設置されており、その銃口から煙が立ち込めていた。


「ディディエ!」

「……駄目。今行ったら、あなたまで同じ目に遭う」


 ブリギッドの首を下へと向け、ディディエを救出しようと飛び出そうとしたところでマリエルに止められた。


「だが! このままでは彼が!」

「……でも、あなたが死んでしまったら飛竜隊の未来はない……いいえ、あなたの夢がここで潰えてしまう」

「マリエル……」


 悲しそうな瞳で訴える彼女の言葉に、私は悔しさと口惜しさのあまり唇を噛む。


「……飛竜隊、撤退するぞ」

「「「「「は……はっ!」」」」」


 無念を抱えつつも、残った飛竜隊の面々八人と共にベルガール要塞への帰還を決め……っ。


 ――ドン、ドン、ドン。


 タワイフ軍の放った砲弾は、慈悲もなく全ての飛竜隊を撃墜し、そして。


『ギャウッッッ!?』


 ――ブリギッドの悲鳴が聞こえたのを最後に、私は意識を失った。

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