飛竜隊、出撃
■キリアン=シルベストル視点
「ようやく、ここまで来れたな……」
『グルル……』
私は愛竜である“ブリギッド”の首を優しく撫でながら、そう呟いた。
既にタワイフ王国の西の国境にある城塞都市セバスティオ攻略に向け、オルレアン軍は国境である海岸線で戦闘が開始されている。
これは、私達飛竜隊のヴィーヴィル二十匹の運用が可能となったことから、ベルガール要塞のオルレアン帝国極西方面軍がタワイフ王国攻略に踏み切ったためだ。
思えば五年前、竜遣いの一族である“アルベルニ族”の集落に、オルレアン帝国の筆頭大臣である“ミシェル=バルリエ”様がお見えになられたのが全ての始まりだった。
あの時、族長や家族……いや、全てのアルベルニ族の者達の反対を押し切り、私はたった一人、ミシェル様にお仕えした。
何故ならミシェル様だけが、この私がずっと思い描いていた、アルベルニ族の持つ竜遣いの秘術の有用性を理解してくださったのだから。
それから私はミシェル様の後押しを得て竜遣いの秘術の研究を重ね、アルベルニ族以外の人間でも竜を使役できるようにしたのが一年前。
さすがに古竜と呼ばれるような種族や気の荒い種族、それに希少種などは使役することは困難ではあるが、それでもヴィーヴィルのように大人しい種族であれば使役が可能。
その甲斐あって、ヴィーヴィル二十匹による世界初の航空戦闘部隊、“飛竜隊”が誕生したのだ。
私は気持ちよさそうに喉を鳴らすブリギッドを見つめていると。
「へへっ、よう」
「ディディエ」
ポン、と肩を叩いたのは、私がミシェル様にお仕えしてからの五年間、一緒に苦楽を共にしてきた親友、ディディエだった。
「この前はあのムカつく野郎共に邪魔されたが、今回は徹底的にやっちまってもいいんだろうな?」
「ああ、もちろんだ。前回のような偵察ではなく、セバスティオを火の海にするようにとの命が下っているからな」
ディディエの問い掛けに、私は頷く。
この飛竜隊の最大の特徴は、銃や大砲が届かず遮蔽物もない上空から、敵の拠点を爆薬や油を振り撒くことにより壊滅できること。
加えて、銃の名手であるディディエなら、ヴィーヴィルに跨りながら高速で敵に接近し、司令官を直接狙撃することも可能だ。
「だけどよお……まさか空から攻撃するなんて発想、よく考えたよな」
「全くだ。これを考えたミシェル様こそ、天才と呼ぶのだろうな」
そう……そもそもヴィーヴィルを用いた航空戦闘を発案したのは、他ならぬミシェル様。
ただ竜を使役して人間と戦わせることしか考えが及ばなかった私とは違い、竜遣いの秘術を遥かな高みへと引き上げてくださった御方。
私は今回の戦争で必ずや飛竜隊の価値を示し、ミシェル様の期待に応えてみせる。
「……キリアン、司令官が呼んでる」
「“マリエル”……分かった」
私を呼びに来てくれたもう一人の親友で、恋人のマリエルと共に、司令官室へと向かった。
◇
「お? 血相変えてどうした?」
司令官室から戻ってきた僕にディディエが声を掛けてきた。
「司令官から正式に出撃命令が下った。目標は、ヴィラント山脈の敵砲撃部隊だ」
「ハア!? 俺達の攻撃先はセバスティオじゃねえのかよ!?」
司令官からの指示を伝えると、彼は声を上げて私に詰め寄る。
「そうだ。現在、海岸線で戦闘を行っているオルレアン軍の後方部隊が、ヴィラント山脈から砲撃を受けているらしい」
「オイオイ……んなもん、やり返してやりゃいいじゃねえか。大砲の数ならコッチだって負けてねえだろ」
「ところがそうもいかない。こちらがヴィレント山脈の敵部隊に撃ったところで届かないが、向こうは地の利を活かして撃ち込んでくるのだからな。それに、ヴィレント山脈に兵を向かわせようにも、そんなことをしたら格好の的だ」
正直、私も司令官からその話を聞いた時には耳を疑った。
あの険しいヴィラント山脈に、いつの間に砲撃拠点を作り上げていたというのか……。
「とにかく、我々飛竜隊がセバスティオを急襲しても、それまでに地上のオルレアン軍が殲滅したのでは意味がない。飛竜隊は準備を整え、直ちに出撃するぞ!」
ディディエだけでなく、飛竜隊の部下達全員に大声で指示を出し、私は愛竜ブリギッドに跨った。
「ブリギッド……私達の初陣だ。頼んだぞ」
『グル!』
力強く頷くブリギッドに頼もしさを覚えながら、私は周りを見て飛竜隊の面々を確認する。
ディディエ……マリエル……飛竜隊のみんな……うん、いい表情だ。
「飛竜隊! 出撃する!」
「「「「「おおおおお――――――――!」」」」」
いよいよ私達は初陣を飾るべく、ヴィレント山脈へ向けて飛び立った。
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