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飛竜隊

「あれ? タワイフの兵共が俺達を待ち構えてやがるぞ?」

「…………………………」

「ふむ……まさかタワイフ軍に、ヴィーヴィルの存在を警戒するような者がいるとはな……」


 手で(ひさし)を作って呑気に僕達を眺める右側の男の兵士と、無言でこちらを見据える左側の女兵士。

 そして、その二人の間で顎に手を当てながら冷静に見定めている兵士……どうやらこの男が、このヴィーヴィル部隊の隊長のようだな。


「はは、わざわざ翼竜に(またが)ってこんなところまではるばる飛んでくるなんて、ご苦労なことだね」


 そんな三人に向け、僕は(あお)るようにおどけてみせた。


「ハッ! 何を呑気なことを言ってやがる。オマエ達は、俺達“飛竜隊”にずたぼろにされるっていうのに」

「あはははは! それは何の冗談だよ! たった三匹のヴィーヴィルしかいないのに、大仰にも飛竜隊だなんて名前までつけて! ひょっとしてその飛竜隊とやらは、僕達を笑い死にさせるのが目的なのか?」

「っ! テメエ!」


 どうやら馬鹿にされたということは理解できるらしく、口の悪い右側の男の兵士が叫んだ。

 挑発に乗って、射程距離圏内まで近づいてくれるとありがたいんだけどなあ。


 そう考えていると。


「お、なんだ。ひょっとして攻撃を仕掛けるつもりか? やめておいたほうが得策だぞ」


 右側の男の兵士の乗るヴィーヴィルが、今にも飛び出すかのように前傾姿勢になった。

 それを見て、僕はさらに(あお)る。


「“ディディエ”! やめるんだ!」

「オイオイ、“キリアン”。所詮は銃だぞ? このヴィーヴィルがやられるわけないだろ」

「…………………………」


 真ん中の隊長らしきキリアンという男が制止するが、どうやら右側のディディエという男は聞くつもりはないらしい。

 だが、二人の気安い会話を聞く限りは、上司と部下というより友人関係に近いのかもしれない。


 そしてキリアンという男も、僕達にはなす(すべ)がないという考えは共通認識なのか、ディディエという男に沿う指摘されたら押し黙った。

 はは、たとえそれが事実だったとしても、こんな独断専行をする部下の行動を許してしまうなんて、とても軍として統率が取れているとは思えないな。


 まあいいや。

 この飛竜隊とかいう部隊の統率力の無さも分かったし、他の情報も入手しておこう。


「それで? 来るのか、来ないのか」

「っ! コノヤロウ!」


 頭に血が上ったディディエという男は、ヴィーヴィルと共に僕達目がけて突撃してくる。

 百二十……百十……百!


「今だ! 竜騎兵、撃てえええええええッッッ!」


 ――ドドドドドドドドドドドッッッ!


 竜騎兵の銃が一斉に火を噴き、けたたましい銃声が鳴り響く。

 しかも、いつもどおり(・・・・・・)十字斉射だから、ヴィーヴィルに逃げ場はない……っ!?


「ハハッ! 無駄撃ちだったな!」


 ヴィーヴィルはすぐに上昇して有効射程範囲の外に出てしまい、残念ながら仕留めることができなかった。


「で、当然ながらテメエ等は、次を撃つために弾込めしなきゃならねえよな?」

「っ!? まさか!?」


 コイツ……次弾装填までの間隙を突くために、突撃するふりをしたっていうのか!?


「ハハハハハ! 本当に、馬鹿みてえに引っ掛かってくれたぜ! んじゃ……蹴散らすとすっかな!」


 先程と同じように前傾姿勢になったヴィーヴィルが、今度は倍以上の速度で突っ込んでくる。

 竜騎兵達は次弾を装填しようとするが、このままじゃ間に合わない……っ。


「さあ! 大人しく死んどけ!」


 ディディエという男が勝利を確信し、笑みを浮かべる。


 だけど。


「なんてな」


 僕もあの男に負けないほど口の端を吊り上げ、右手をヴィーヴィルに向けた。


「撃てええええええええええッッッ!」


 ――ドドドドドドドドドドドッッッ!


 一発目と同じだけの銃声が響き、全ての弾丸がヴィーヴィルへと向かう。

 さっきは百メートルでの距離だったが、今度は本気で突撃してくる中での五十メートル以内での射撃だ。絶対に(かわ)せない。


「……チッ」


 かなりの数の弾丸がその胴体や翼に撃ち込まれ、全身から血を流すヴィーヴィル。

 ただし、残念ながらヴィーヴィルの身体が盾となって、あのディディエという男には当たらなかったみたいだ。


「はは、本当に貴様が馬鹿で助かったよ。大体、僕達が間隙を突かれることを想定していないと思ったのか?」


 そう……この男が考えたように、初撃が(かわ)されてから次弾装填までには、銃の構造上どうしても時間がかかる。

 もちろん、紙で弾丸と火薬を包んだ薬莢(やっきょう)を用いることで、できる限り時間を短縮できるようにしているが、それでも手慣れた竜騎兵でも十秒の隙が生まれてしまうし、これはどうしようもない。


 だから、射撃の際には部隊の二分の一の兵のみが射撃し、次弾装填を行っている間に残り二分の一の兵が射撃を行う。

 こうすることで、発射間隔を最短五秒に短縮させることが可能になるんだ。


 僕達はタワイフ王国との戦争で、嫌というほど戦闘を繰り返してきた歴戦の軍隊。そんな初歩中の初歩の対策、考えないわけがないだろう。


「さて……残る二人は来ないのか? 何だったら、その男と同じような目に遭わせてやるんだけど」

「「…………………………」」


 キリアンという男ともう一人の女兵士は鋭い視線こそ向けて来るが、ディディエという男のようにいたずらに突撃をするつもりはないみたいだ。

 とはいえ、絶対的優位だと思っていた自分達が、まさかこんな仕返しを受けるとは思わなかったんだ。同じ(てつ)は踏まないか……。


「……二人共、帰還するぞ」

「っ! キリアン、本気かよ! 俺はやられた分、キッチリ倍返ししてやらないと気が済まねえ!」

「馬鹿を言うな。私達の目的はあくまでも偵察、これ以上戦闘するつもりはない」

「だ、だけど、このままでいいのかよ!」

「ディディエ……これ以上、私の()を危険な目に(さら)すというのなら、お前には飛竜隊から抜けてもらうぞ」

「っ!? ……チッ、分かったよ」


 キリアンという男に凄まれ、ディディエという男は舌打ちをしながらも受け入れた。

 今の会話を聞く限り、ヴィーヴィルの兵科としての運用に当たっては、この男が鍵のようだな。


「では行くぞ」

「それで、帰りも海の上なのかよ」

「当然だ。城壁で待ち構えられていた以上、海岸線などにも同じようにタワイフの兵がいるかもしれないのだからな」


 そう言うと、飛竜隊の連中は来た方向へと引き返し、飛び去っていった。

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