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支援者の激昂

「ベル兄様」


 練兵場へとやって来たアナベル殿下が、眉根を寄せながら僕の名を告げた。


「……なんでしょうか」

「私の大切な従者であり護衛騎士であるレオを、こちらの平民(・・)が傷つけたと伺いました。この責任、どう取ってくださるのですか?」


 もはやカサンドラ准尉に対する嫌悪感を隠すことなく、アナベル殿下がそう言い放つ。


「責任? あの女は、僕の(・・)補佐官を殺そうとしたんですよ? こちらこそ殿下に責任を取ってほしいくらいです」


 僕も僕で、アナベル殿下に対して鋭い視線を向けながらそう返した。

 もはや僕と彼女の間に、幼馴染としての感情は残されていない。


「……どういうことでしょう?」


 はは……自分がサリナス卿をけしかけたくせに、(しら)を切るなんて。

 アナベル殿下も、自分の従者に対して過大評価をし過ぎてるんじゃないだろうか。


「私がサリナス卿にこれはアナベル殿下の差し金なのかと尋ねると、『殿下は貴様のような平民が弁えもせず、シドニア将軍の周りをうろちょろされては目障りなのだ』とはっきりおっしゃいました」

「平民には聞いていません。私はベルトラン将軍に伺っているのです」


 分を弁えろとばかりに、アナベル殿下はカサンドラ准尉に言い放った。


「僕の答えも同じですよ。サリナス卿は、殿下の命を受けて殺害しようとしたんです」

「フフ……その証拠はあるのですか? それとも……そのような状況を、あなたはただ見物していたとでも言うつもりですか?」


 平民の言葉は証拠としての価値はなく、僕が目撃したわけではないことをいいことに、アナベル殿下がクスクスと(わら)って(あお)る。


「アナベル殿下、こちらのサラス少尉とサモラーノ事務官が、一部始終を目撃しておりました。ああ、もちろんこの二人は、あなたの大好きな貴族(・・)ですので、あしからず」

「…………………………」


 僕は皮肉を込めてそう告げると、アナベル殿下は忌々しげにサラス少尉とサモラーノ事務官を交互に見やった。


「ですが、実際に被害を受けたのはレオで、この平民は無傷。そもそも、レオの実力から考えればこんな子どものような平民に勝てる見込みはありません。それこそ、あなた方が共謀して卑怯な真似でもしたのではないですか?」


 複数人の証言があると不利だと感じたのか、アナベル殿下が切り口を変えてきた。


「まさか。むしろ僕からすれば、カサンドラ准尉にあっさりと敗れるような、そんな者が皇族の護衛騎士を務めていることのほうが驚きです。僕は常に前線におりましたので知りませんが、皇宮では人材難なのでしょうか?」

「レオを侮辱する発言、たとえベルトラン将軍でも許しません」


 許さない? それは僕の台詞(セリフ)なんだが。


 すると。


「いい加減にせんか!」

「「「「「っ!?」」」」」


 ノリエガ将軍の大喝一声に、僕達は思わず身を(すく)めた。


「アナベル殿下! サリナス卿とカサンドラ准尉の一件については、この私も一部始終を見ていた! どのように言い繕おうと、もはや結果は変わりませぬ!」

「…………………………」


 まさかノリエガ将軍にまで目撃されていたとは、思いもよらなかったはず。

 それでもアナベル殿下は平静を装い、ただ静かにノリエガ将軍を見つめていた。


 ……いや、僅かにその唇が震えているところを見ると、感情を必死で押さえているのか。

 まあ、普通に考えればまだ士官学校も卒業していない、十八歳の女の子だからな。それも仕方ないのかもしれない。


「いずれにせよ、ベルトラン君もカサンドラ君も、明日からエルタニア皇国の代表としてタワイフ王国の戦争に参加してもらわねばならんのです。あまりそのようなことをされるのであれば、私としてもこれ以上アナベル殿下を後押しできませんな」

「っ!? ま、待ってください!」


 (きびす)を返して立ち去るノリエガ将軍を、アナベル殿下が慌てて追いかけて必死に何かを訴えている。

 第三皇女ということで上二人の皇子よりも支持基盤の少ないアナベル殿下からすれば、『八家』の中でも一、二を争うほどの力を持つノリエガ家の支援が途絶えれば、勝ち目がなくなってしまうからね。


 どちらにしても、僕はアナベル殿下と完全に袂を分かったのだ。

 もう二度と、彼女を支持することは決してないだろう……って。


「カサンドラ准尉?」

「たとえアナベル殿下とサリナス卿の企みであるとはいえ、軽々にあのような真似をしてご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 そう言って、カサンドラ准尉が深々と頭を下げた。


「いや……もしカサンドラ准尉が僕に遠慮して泣き寝入りをしてしまっていたら、それこそ最悪の事態になっていたかもしれない。君の取った行動は正しいよ」

「ベルトラン将軍……」


 その小さな両肩をつかんで身体を起こすと、僕はニコリ、と微笑んだ。

 ただ僕は、カサンドラ准尉が無事で、本当に嬉しいんだから。


「さて……これで心置きなく、僕達もタワイフ王国に向かうことができるな」

「はい」

「将軍! サン=マルケス要塞の留守は、お任せください!」

「ああ、二人共頼んだぞ」

「「はっ!」」


 僕達四人は互いに顔を見合わせ、笑顔で頷き合った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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