提案
「それでは、準備が整うまでこちらでしばらくお待ちください」
王宮へとやって来た僕達は、応接室へと案内されてタワイフ国王との謁見まで待つこととなった……んだけど。
「……ノリエガ将軍、別に僕は同席不要なんじゃないでじょうか?」
ソファーに腰掛けながら呑気に用意されたお茶を飲む将軍を、僕はジト目で睨んだ。
「申し訳ありません……私が是非にと、ノリエガ将軍に無理を言ったのです……」
「あ、あー、そういうことですか……いや、お気になさらず」
悲しそうな表情で目を伏せるアナベル殿下に、僕は慌ててフォローを入れる。
というか、そういうことならノリエガ将軍も最初に言っておいてくださいよ……。
だけど。
「そうすると、謁見に臨むのはアナベル殿下、ノリエガ将軍、そしてこの僕の三人で、カサンドラ准尉とサリナス卿はこの部屋で待機、ということでしょうか?」
そう言って、僕はアナベル殿下に僅かに鋭い視線を向けた。
もしそうなら、悪いけど一緒に謁見することは遠慮する。
「フフ……タワイフ国王には、この五人で謁見します」
「お待ちください。さすがに私がそのような場に同席するのは……」
「いいや、いざという時に僕のフォローをしてもらわないといけないから、残念ながらカサンドラ准尉も一緒だ」
アナベル殿下の言葉を受けてカサンドラ准尉が恐縮して辞退しようとするが、それをこの僕が認めるはずがない。
何より、あの馬鹿なイケメンと二人だけにしたら、それこそ何をしでかすか分かったものじゃないし。
それに、平民出身だの身分がどうだの、そんなくだらない基準で彼女を評価されたくはないんだよ。
「そういうことですので、カサンドラさんには諦めていただきませんと」
「は、はい……」
納得のいかない様子だが、カサンドラ准尉は受け入れた。
「大変お待たせいたしました。それでは、ご案内いたします」
迎えに来た者が、僕達を謁見の間へと連れて行く。
そして。
「国王陛下の御入場です」
赤い絨毯の上で僕達が傅きながら待つ中、玉座の傍に立つ初老の男……おそらくは、あれがタワイフ王国の大宰相だろう。その男が、高らかに宣言すると、黄金の装飾品を全身にまとった青年が供を引き連れて入ってきた。
――あれこそが、タワイフ王国の若き王、“バヤジット=ビン=タワイフ=ハーン”だ。
「面を上げよ」
バヤジット王の言葉を受け、僕達は全員顔を上げた。
「この度は、我がタワイフ王国への物資の提供、感謝いたす」
「とんでもございません。我々エルタニア皇国の友好の品、気に入っていただけたようで何よりです」
「「「「「おお……」」」」」
返答したのはアナベル殿下。
その女神のような微笑みや透き通った声に、バヤジット王をはじめ謁見の間にいる者達は感嘆の声を漏らした。
まあ、今回の目的がタワイフ王国の支援に加え、友好関係を構築することを目的としているのだから、つかみは上々だろう。
特に。
「…………………………」
はは、バヤジット王は完全に心を奪われているし。
一方で、アナベル殿下はにこやかな笑顔を浮かべるばかりで、バヤジット王に対してどのような印象を受けているのか分からない。
彼女が皇帝陛下や文官共の思惑に関係なく、自分にとって一番良い選択をしてくれればいいんだけど……。
「コホン……陛下」
「っ! そ、そうだな……今日は遠路はるばる来てくれたお主達を、今宵は是非とも歓迎の宴を催したい。受けてはもらえるだろうか……?」
「もちろんです。このアナベル、今から楽しみでなりません」
うんうん。この王様、おそらくは女子と恋愛もしたことがないボッチ童貞と見た。
イケメンでしかも僕と同じくらいの年齢っぽいのに、可哀想だなあ。
「(……ベルトラン将軍、このようなところで失礼なことを考えるのはやめてください)」
「(え? ひょっとして声に出てた?)」
「(声までは出ていませんが、口が動いていました)」
おっといけない、思っていることを口にする癖、いい加減直さないとなあ。
「(それと……後で、話がありますから)」
「(ええー……)」
そのアメジストの瞳の鋭い視線から察するに、絶対に碌な話じゃない。
僕は何とかしてカサンドラ准尉から逃げ出す算段を考えていると。
「ところで……今、このタワイフ王国はオルレアン帝国の侵略を受け、未曽有の危機に立たされている。これを打開するためには、タワイフとエルタニアの両国の関係を強固にする必要があると考えるが、その……アナベル殿下はどう思うか?」
「私、でしょうか……」
多分に意味を含んだバヤジット王の問い掛けに、アナベル殿下が思案する。
というかバヤジット王、『結婚する前に自分の行動を省みろ(急いては事を仕損じる)』という格言を知らないのか?
……まあ、ボッチ童貞(推定)からすれば、心に余裕もなくて焦ってしまう気持ちも分からなくはないけど。何ならすごくよく分かるけど。
「もちろん、バヤジット陛下のおっしゃるように、オルレアン帝国の野望を食い止めるためにも、両国が手を取り合う必要があるかと」
「そのとおりだ。アナベル殿下は、聡明な姫君であらせられるな」
「まあ……」
こんな当たり障りのない答えにも、最大限の賛辞を贈るバヤジット王。何だか応援したくなるのは気のせいだろうか。
「フフ……実はバヤジット陛下のおっしゃる、今のタワイフ王国が置かれている局面を打破し、なおかつ、両国の関係を強くする方法があります」
「ほう! それは何であるか!」
アナベル殿下の言葉に、バヤジット王は瞳を輝かせながら身を乗り出して尋ねる。
まさか……アナは、自分から政略結婚を持ちかけるというのか……?
僕は心配そうに見つめながら、アナの次の言葉を待つ。
だが、彼女の告げた内容は、僕の予想からかけ離れたものだった。
「ここに控えておりますのは、エルタニアが誇る“不敗将軍”、ベルトラン=シドニアにございます。彼をオルレアン帝国との戦争に、軍事顧問として貴国に派遣するというのはいかがでしょう」
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