主君の責
「そうか。なら、エルタニア皇国に八人しかいない将軍の一人で、貴様よりも身分の高いシドニア侯爵家の当主である僕が、爵位も持たないただの護衛騎士を始末したとしても、何も問題ないな」
そう告げると、僕は常に持ち歩いている拳銃を取り出し、銃口を向けた。
大体、この男はアナの護衛騎士という程度で、何を調子に乗っているんだ?
「お、お待ちください! 私はただ、アナベル殿下のお気持ちを最優先に考えただけで!」
「嘘を吐くな。このような事態になったら一番迷惑がかかるのは誰なのか、考えれば分かることだろう。なのに貴様は、こんな真似をしたんだ」
サンドラを守るように抱きしめながら、僕はゆっくりと歩を進める。
こう言っては何だけど、拳銃というのは命中精度が悪いから、確実に殺すためには至近距離から撃つ必要があるから。
「あ……ま、待って……」
「黙れ。一度ならず二度までも、貴様は僕の補佐官を侮辱し、それどころか危害まで加えた。なら、死をもって償え」
無慈悲にそう言い放ち、僕は撃鉄を起こした。
そして、ゆっくりと引き金を引こうとして。
「……サンドラ?」
「アカンよ、ベル君。そんなことしたら、ベル君が罪を負うことになってまう」
撃鉄のハンマーと火打石の間にその小さな手を挟み込み、サンドラは今にも目の前の男を射殺しようとした僕を止めた。
「はは、大丈夫だ。僕がそんなヘマをすると思うか?」
「そういうことやない。私は、ベル君にこんなくだらないことで手を汚してほしくないんや」
そう言うと、サンドラがアメジストの瞳で見つめる。
「それこそ何を言ってるんだ。僕はもう、何千、何万というタワイフ兵を血祭りにしてきたんだぞ? こんな勘違いをした屑を一人殺したところで、何も変わらないよ」
「それでも……それでも、私は嫌なんや。ベル君が苦しんだりするのは、嫌なんや」
ハア……コイツはサンドラを殺そうとした奴だっていうのに、何だって止めるんだよ。
しかも、僕のためってなんだよ。意味分からん。
「……分かったよ」
僕は撃鉄を戻してフリズンを固定した。
あーあ……どうやら僕は、サンドラにはとことん逆らえない仕様らしい。
「ベル君、ありがとう……」
「まあ、被害を受けたサンドラがいいって言うんだから、これ以上僕が手を出すのもおかしくなるし」
そう言って、僕は苦笑しながら肩を竦めた。
すると。
「うい~、飲みすぎたわい……って、ベルトラン君にカサンドラ君、そして……サリナス卿」
あー……相変わらずタイミング悪く登場するなー……。
しかも酔っ払っているくせに、こういう時に限って鼻が利くんだし。
「何があったのか、詳しく話せ」
「はい……実は……」
僕達を代表して、サンドラがノリエガ先生に詳細に説明した。
サリナスの馬鹿は顔を引きつらせて使いものにならないし、僕も一番最初から何があったのか知っているわけじゃないしね。
だけど……あの冷静でクールなサンドラが、サリナスに対してあんなにも怒った理由は分かった。
本当に、しょうがないなあ……。
「それで……って、わっ!?」
「そんなこと、放っておけばよかったのに」
「むー……ベル君のこと馬鹿にしたんやから、怒るに決まってるやん」
少し乱暴に頭を撫でると、サンドラは口を尖らせてジト目で睨む。
僕? 僕はといえば、答えに窮したのでそっぽを向いたとも。
「ハア……とりあえず、事情は分かった。サリナス卿……余計な真似をしてくれたものだな」
「ヒッ!?」
さすがに二回目とあって、ノリエガ先生が鋭い視線を向けながら凄む。
というか、怒ったノリエガ先生は僕の百倍は怖いので、護衛騎士であるにもかかわらず恐怖で声を漏らしたとしても仕方がないというものだ。うん。
「今はアナベル殿下もお身体がすぐれないのであれだが、体調が戻ったら全て伝え、今後は護衛騎士からお前を解任するよう……」
「その必要はありません」
透き通るようなはっきりとした声が聞こえ、僕達は振り向くと。
「アナベル殿下……」
「話は全て伺いました。この度は、本当に申し訳ありません」
顔色の悪いアナベル殿下が現れ、深々と頭を下げた。
「で、殿下、そのようなことは……!」
「いいえ、部下の不始末は私の不始末。なら身分に関係なく、このように謝罪をするのが筋というものです」
体調がすぐれないはずなのに、気丈に振る舞うアナベル殿下。
おかげで強面のノリエガ将軍が、しどろもどろになっている。
「カサンドラさん……あなたにも、ご迷惑をおかけしました……」
「い、いえ……」
傍へとやって来て、アナベル殿下がサンドラの手を取り謝罪した。
あのサンドラでさえ、まさか第三皇女にこんなことをしてもらうことになって、戸惑っているみたいだ。
「……任務を終え、皇都へと戻りましたら、然るべき処分をいたします。ですので今はどうか、これで矛を納めてくださいますよう……」
「分かりました。ベルトラン君、カサンドラ君、それでいいな?」
「「はい」」
ノリエガ将軍の有無を言わせない問い掛けに、僕もサンドラも頷くのみだ。
何より僕も、これ以上アナの身体に負担を掛けたくないしね。
「さあさ、殿下早く部屋にお戻りくだされ」
「はい……レオ、行きましょう」
「は、はい!」
ニコリ、と微笑むアナベル殿は、サリナスに身体を支えられながら部屋を戻っていった。
「ハア……やれやれ、困ったもんだな」
「本当ですよ……」
そう返すと、溜息を吐くノリエガ将軍はジト目で睨むが……って。
「…………………………」
「どうした?」
「……いえ、何でもありません」
不思議に思い声を掛けると、既に仮面を被っていたカサンドラ准尉は、アナベル殿下の背中をジッと見据えてかぶりを振った。
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