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銃VS剣

「それで、これはどのようなお仕事なのですか?」

「これはですね……」


 次の日の朝、執務室でカサンドラ准尉に監視をされながら業務に勤しんでいる中、訪ねてきたアナベル殿下にさっきから質問攻めに遭っている。

 なのでカサンドラ准尉、仕事がはかどらなくても僕のせいじゃないってことはちゃんと理解しておいてくれ。


「……アナベル殿下、シドニア将軍の邪魔をしてはいけませんので」


 まるで親の仇とでもいうかのように僕を睨みつけながら、護衛騎士のサリナス卿はアナベル殿下をたしなめる。

 昨日からずっと思っていたけど、この僕が一体何をしたっていうんだよ。


「ハア……とりあえず、ベルトラン将軍はアナベル殿下にご案内してさしあげてはいかがでしょうか?」


 この騒がしい状況を見かねたカサンドラ准尉が、珍しくこの僕にサボリのお墨付きをくれた。本当に珍しい。


「ではアナベル殿下、退屈しのぎになるかどうかは分かりませんが、要塞内をご案内いたします」

「フフ、ありがとうございます」


 僕はアナベル殿下の細い手を取り、執務室を出てまずは練兵場へと案内した。


「わああああ……皆さん、頑張っておられますね」


 兵士達が訓練する姿を見て、アナベル殿下は感嘆の声を漏らす。

 ちょうど兵士達は、近接戦闘の修練に励んでいるみたいなんだけど……。


「……ノリエガ将軍、何をしておられるのですか?」

「ん? 身体が(なま)るといかんのでな。こうしてここの兵達と共に訓練をしている」

「は、はあ……」


 いや、訓練してくださるのは構わないのですが、うちの兵士達を巻き込まないでくださいよ。

 おかげでみんな、死んだ目をしながら剣を振っているじゃないですか。


「どうだ? 久しぶりに(・・・・・)手合わせでも」

「ご冗談を。僕は頭脳労働専門ですし、相手になるわけがないじゃないですか」


 筋骨隆々な上に身長も百九十センチを超すノリエガ将軍なんかとそんなことしたら、僕の命はここで尽きてしまうから。

 僕には将軍を辞めて、失った七年間の青春を取り戻すっていう使命があるんだよ。


 それなのに。


「ほう……? シドニア将軍は、仮にも多くの兵を指揮する立場にありながら、そのように弱腰な姿を見せるのですね」

「あはは、そうですね」


 口の端を持ち上げながら、サリナス卿が小馬鹿にしながら(あお)ってきた。

 もちろん僕は、そんなの一切気にせずに適当にあしらうけど。


「やれやれ……これでは、ついてくる兵達が可哀想です。将軍のような臆病者に命を預ける者達は、たまったものではないでしょうね」

「レオ、言葉を慎みなさい」


 ずっとにこやかだったアナベル殿下が、真顔で制止する。

 だが、それでも彼は言い足りないらしく。


「まあ、彼女……カサンドラ准尉ですか? 侯爵という身分でありながら、あのような平民出身の者を最側近として置く時点で、兵の統率も何もあったものではないですが」


 サリナス卿がそう告げた瞬間。


「落ち着けベルトラン君! サリナス卿、貴様もこれ以上しゃべるな!」


 あのノリエガ先生が血相を変え、僕の両肩を押さえてなだめた。

 はは……僕だってもう大人なんですから、七年前とは違いますよ。


 とはいえ。


「ハア……痛い思いをするのは嫌なんですが、仕方ありませんね」


 僕はやれやれといった表情を浮かべ、かぶりを振った。

 それを見た訓練中の兵士達は、一斉に準備を始め出す。


「では、せっかくですのでサリナス卿にお相手いただいても?」

「ええ、もちろんです。シドニア将軍の実力の程、この私が採点しましょう」


 はは……サリナス卿、僕ごときに負けるなんて思ってないから、むしろ願ったりというような顔してるし。

 一方で、ノリエガ先生は頭を抱えて、アナベル殿下は仮面を被ったみたいに無表情なんだけど。


 まあいいや。


「では、好きな武器をお選びください。もちろん、真剣でも構いませんよ」

「大きく出ましたね。では、こちらを使わせていただきます」


 そう言うと、サリナス卿は腰にある愛剣を鞘から引き抜いた。


「本当にそれでいいんですか?」

「? ええ、もちろん」


 僕の質問の意図が分からないのか、サリナス卿は不思議そうな表情を浮かべながら答えた。

 ひょっとしたら、彼は実戦経験がないのかもしれないな。僕の知ったことではないけど。


「分かりました。じゃあ、僕はこれ(・・)にしますね」

「っ!?」


 兵士達の手によって、僕の(そば)に弾が装填されたフリントロック式のマスケット銃が立て置かれる。

 その数、五丁。


「おや? どうかなさいましたか?」

「た、立ち合いに銃を持ち出すなど、卑怯ではないですか!」

「卑怯?」


 サリナス卿は声を荒げるが、僕は何を言っているのか理解できないとばかりに、肩を(すく)めてかぶりを振った。


「ではサリナス卿は、戦場で銃を持った敵兵と相対したら、同じように卑怯だと言うのですか? おめでたいですね」

「だ、だがここは戦場では……」

「同じですよ。少なくともあなたは、この僕に対して戦争を仕掛けてきた。なら、一切手加減も許すつもりもありません。それに、これが僕の戦い方ですから」


 僕は銃を取ると、引き金を引いてサリナス卿の額へと照準を合わせた。


「ノリエガ将軍、開始の合図を」

「お、落ち着くんだ! 確かにサリナス卿は無礼を働いたが、許してやってくれ! サリナス卿も何をしておる! 早く負けを認め、謝罪せんか!」

「あ、ああ……っ」


 ノリエガ先生は必死に止めようとするが、当の本人は混乱して変な声を漏らすばかり。

 そのイケメンの顔を、恐怖で引きつらせながら。


「ベルトラン将軍……この度は部下が失礼な真似をして申し訳ありません。ですが将軍のおかげで、レオも己の過ちに気づいたことでしょう」


 僕とサリナス卿の射線上に立ち、深々とお辞儀をするアナベル殿下。

 あー……さすがにこれ以上はまずいか。


「……分かりました。本来、戦場で隙を見せるようなことはできないのですが、殿下に従います」


 そう言うと、僕はようやく銃を降ろした。

 すると緊張が解けたのか、サリナス卿はその場でへたり込む。いや、アナベル殿下の護衛騎士なのに、思ったより度胸がないな。


「あはは、どうやらサリナス卿は、これ以上の要塞見学は難しそうですね。おい、サリナス卿を部屋までお連れして差し上げろ」

「「はっ!」」


 僕達のやり取りを固唾を飲んで見守っていた兵士達のうち二人が、彼の(そば)へ行って両脇を抱え、ゆっくりと立ち上がらせると、そのまま部屋へと連れていった。


「全く……ベルトラン君は変わっておらんな……」

「ええー……かなり大人になりましたよ?」

「どの口が言うのだ」


 ノリエガ先生にジト目で睨まれ、僕は思わず顔を逸らした。


「それでアナベル殿下、要塞見学はどうされますか? このようなことになってしまいましたし、今日のところは……」

「フフ、まさか。引き続きお願いしますわ」

「そうですか」


 ということらしいので、僕はノリエガ将軍と別れ、アナベル殿下の手を取って要塞の案内を続ける。


 そして、周囲に誰もいない城壁の上へとやって来たところで。


「ベル兄様!」


 とまあ、約七年振りにアナベル殿下……アナにそう呼ばれた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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