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同行の目的

「あー……晩餐会をしたからって、仕事が減るわけじゃないんだよねー……」


 いや、むしろ仕事が進んでないからいつもより溜まってるし。

 それでも、仕事を片づけないことには僕も明日を迎えることができない。


 なので、僕は次の予定(・・・・)までの僅かな隙間でさえも仕事に励んでいる。

 ああ……いつの間にか僕は、カサンドラ准尉によって社畜根性を刷り込まれてしまっているみたいだ。


「ベルトラン将軍、人聞きの悪いことを言わないでください」

「あれ? ひょっとして、僕の心の声が聞こえてた?」

「聞こえていたというより、その口から全て漏れていましたが」


 おっと、どうやらそういうことらしい。


「まあいいや。それより、そろそろだと思うんだけど……」

「そうですね。伺ってみますか?」

「ああ」


 僕とカサンドラ准尉は仕事を中断し、ノリエガ将軍の部屋へと向かう。

 もちろん、皇都本部の意図を確認するために。


 ――コン、コン。


「「失礼します」」


 僕達はノックして扉を開けると、ノリエガ将軍が……って、妙に可愛いナイトウェアを着てるな。


「ノリエガ先生……さすがにそれは似合いませんよ」

「何を言う! うちのカミさんが仕立ててくれた特注品だぞ!」

「あー、そうですかー」


 指摘されてノリエガ先生は声を荒げるが、正直どうでもよくなったので耳をほじりながら生返事で返した。


「うちの将軍は置いといて、先生……それで、皇都本部はオルレアン帝国とタワイフ王国の戦争について、どのように考えておられるのですか?」

「そうです。皇国は、どこまで介入するつもりなんですか?」


 置いてかれたことは甚だ不本意だけど、カサンドラ准尉の言うとおりなので、僕も話に乗ることにする。


「……今のところは、物資の支援までだ。だが、どうやら皇帝陛下と文官どもは、これを機にタワイフ王国との関係を強化したいと考えているようでな」

「そういうことですか……」


 ノリエガ先生の言葉の意味を理解した僕は、思わず唸る。


「そ、その……ベルトラン将軍……?」

「ん? ああ、すまない。つまり僕が分かったことは、今回の物資の輸送について、アナベル殿下が一緒に来られたのは単なる気まぐれや我儘(わがまま)ではないってことだよ」


 そう……アナベル殿下やノリエガ先生がやって来たのには、ちゃんとした理由があったってことだ。

 特にアナベル殿下に関しては、おそらくは関係強化のための政略結婚も視野に入れているのだろう。


 アナベル殿下は十八歳で今年で士官学校を卒業されるし、婚約者もまだ決まってはいなかったはず。

 なら、そういった思惑に至っても不思議じゃない。


 とはいえ。


「今回の件は、さすがに早計だと思いますが……」

「ハア……私もそう思っておる。一応、皇帝陛下にもそのことは申し上げたんだが……文官どもめ、余程調子のいいことを言ったに違いないわい……」


 そう言って、ノリエガ先生は頭を掻いた。

 その心中、察するに余りあるものの、僕がその対応せずに済んでよかったなー、と他人事のように思ったりもしている。


「大体、アナベル殿下の婚約者をさっさと決めておけば、こんなことにはならなかったんですよ。それこそ、武官よりの有力株でもあてがっておけば……って」

「……君がそれを言うか」


 何故かノリエガ先生は、ジト目で僕を睨んでくるんだけど。

 そしてカサンドラ准尉も、どうしてそんな瞳で見つめてくるのかな。


「ハア……まあ、そんなことになれば、それこそとんでもない(・・・・・・)事態(・・)に発展しかねんからな」

「何だかよく分からないですけど、肝心のアナベル殿下のお気持ちはどうなんですか?」

「もう一度言うが、君がそれを言うか……いずれにせよ、殿下は今回の件は既に受け入れられておるよ。上にいる二人の皇子達とは違い、皇族としての責務を理解しておられるからな」


 なるほど、ねえ……。

 はは、何というかあまり他人事とは思えなくなってきたな。


「いずれにせよ、タワイフ王国との関係を構築することはいいですが、その手段として政略結婚というのはまずいですね」

「やはり君もそう思うか」

「はい。あの国と縁戚関係になってしまったら、このままではエルタニア皇国も参戦待ったなしですし」


 もちろん、タワイフ王国としてはそれが狙いだろうけどね。

 このままじゃ敗北する未来も待っているし、仮に追い返すことができたとしても、少しでも損害を減らしたいと考えているだろうし。


「ただ、僕が不思議に思うのは、どうして文官連中はそちらへと傾倒しているのかということですが……」

「なあに、単純な話だよ。所詮あやつ等はオルレアン帝国が怖いのだ(・・・・)


 なるほどね……要は、自分達の保身(・・)に走ったってことか。

 そのためなら、十八歳の第三皇女を平気で差し出すことも辞さないと……って。


「ベル君、落ち着いて。まだそうなるって決まったわけちゃうんやから……」


 僕の袖を引き、サンドラが心配そうな表情でそう告げた。

 ハア……こうやってすぐに僕の感情や思考を読むんだからなあ……。


 どうやら僕は、結局彼女には敵わないみたいだ。

 ま、勝てるんだったら、今頃はとっくに将軍を辞めてるはずなんだけどね。


「わっ!?」

「あはは、サンドラの言うとおりだよ。それにノリエガ先生はそう言ったけど、あの(・・)アナベル殿下が素直に受け入れているっていうのも、あまり信じられないし」

「むー……ベル君、あんまり女の子の髪の毛を軽々しく撫でたりしたら、嫌われるで?」


 そんなこと言いながらもサンドラの口元、超ゆるっゆるだし。

 というか、僕が女性の髪を撫でたりするのなんて、一人しかいないんだけど。


「ぶわっははははは! 相変わらず変わっておらんようで何よりだ!」


 そんな僕達のやり取りを見て、ノリエガ先生は豪快に笑った。

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