表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/64

恩師ノリエガ

「ベルトラン将軍、タワイフ王国に潜入させている諜報員からの緊急連絡です。王都や各地から進軍するおよそ三万の兵が、カラバカ砦に入ったとのことです」


 執務室にやって来たカサンドラ准尉が、淡々と告げた。


「いよいよ来たか……それで、こちら側(・・・・)はどうなっている?」

「はい。皇都からサン=マルケス要塞へ向け送られた一万七千の援軍ですが、既にアルバロ砦を通過したとのこと。もうまもなく到着予定です」


 要塞の常備兵三千と合わせて二万。数の上では不利だけど、アルバロ砦とレイナ砦がすぐ後ろに控えてもいるし、万が一のことがあっても問題はないだろう。


「それにしても……全て将軍の思惑どおりとなりましたね」

「まあな。連中(・・)からすれば、ここで両軍ボロボロになってほしいだろうし」


 それが、アイツ等の命取りになるとも知らずに。


「いずれにせよ、カラバカ砦に入ったんなら、今頃は指揮官が『話が違う』って激昂してるだろうな」

「そうでしょうね。こちらも、そんな未来がまもなく訪れますが」


 そう言って、カサンドラ准尉は澄ました表情で肩を(すく)めた。


「なあに、向こうに三万の兵が来ていることは間違いないんだし、何も言ったりはしないだろうさ。といっても、怒り狂って何か言ってきたところで、最高指揮官はこの僕なんだから、カサンドラ准尉は何も心配しなくていい」

兵站(へいたん)や兵士の管理など、心配事しかありませんが?」

「……そうだね」


 ジト目で睨まれ、僕は思わず顔を逸らした。

 そうだよなあ……策略とはいえ、結局のところ負担を彼女に押し付けたわけだし……。


「ベルトラン将軍、事後処理はよろしくお願いしますね」

「……はい」


 カサンドラ准尉の有無を言わせない言葉に、僕は首肯してうなだれていると。


 ――コン、コン。


「ベルトラン将軍、皇都からの援軍が到着しました」

「分かった。すぐに出迎えるとしよう」


 僕は席を立ち、カサンドラ准尉を伴って要塞の西門へと向かった。


 ◇


「いやあ! 間に合ったみたいでよかったわい!」


 出迎えた僕の背中を豪快に叩く、(ひげ)を蓄えた壮年の指揮官は、エルタニア皇国軍においても猛将として知られる“エドガルド=ノリエガ”将軍。

 正直、まさかこの人がやって来るのは予想外だった。


「ノ、ノリエガ将軍、お久しぶりです……」

「んん? ベルトラン君、覇気がないな! そんなことではこの戦局を乗り切ることはできんぞ!」


 そう言って、さらに強めに背中を叩くノリエガ将軍。痛い。


「ノリエガ将軍、お久しぶりです」

「おお! カサンドラ君じゃないか! 元気にしているか!」

「おかげさまで、息災にしております」


 普段は冷酷な仮面を被るカサンドラ准尉も、彼の前では僅かに顔を綻ばせる。

 それもそのはず、ノリエガ将軍はたった三か月しかなかった、僕の士官学校時代の教師だったのだから。


 いやあ……アレ(・・)をやらかした時も、強烈な頭突きを食らって悶絶し、一週間経っても痛みが引かなかったこともよい思い出……いや、全然よくはないぞ。


「ところで……せっかく駆けつけたというのに、攻めてきているというタワイフの大軍はどこにおるのだ?」

「あ、あははー……」


 周囲をキョロキョロしながら尋ねる将軍に、僕は苦笑いを浮かべた。

 ど、どうしよう、他の指揮官連中だったら適当にあしらおうと思ったのに、これじゃ言い逃れできない……。


「むむ……まあいいわい。詳しいことは、ゆっくり聞かせてもらうとするか」

「は、はい……」


 ノリエガ将軍にガシッ、と肩を組まれながら、応接室へと案内すると。


「……実は、タワイフが大軍で攻めてきたというのは()でして」


 僕は土下座を敢行しながら、洗いざらい告白した。

 もちろん、カルレス=ウリアルテの思惑込みで。


「なるほどな……それで、ベルトラン君は悪知恵を働かせて、偽の情報で両軍を釣り出したわけだな」


 この応接室にはカサンドラ准尉を含めて三人しかいないので、僕達の口調は士官学校当時に戻っている。

 僕としてもそのほうがやりやすいといえばやりやすいが、あの『悪夢の三か月』のトラウマが蘇り、さっきからカップを持つ手が無意識に震えてるんだけど。


「は、はい。カラバカ砦を指揮するタイラン将軍(パシャ)とは話がついており、カラバカ砦にも三万の軍勢が入場したとの連絡も入っております」

「そうかそうか」


 僕の説明を聞き、ノリエガ先生は満足げに頷く。


「それで、こんなことを尋ねるのは恐縮なのですが、その……」

「うん? わっはは! 心配せんでもよい! 私はあの小童(・・)とは無関係だ!」


 こちらの意図を理解したノリエガ先生が、豪快に笑って否定する。

 でも、カルレス=ウリアルテのことを小童(・・)呼ばわりしているということは、あまりよく思ってはいないんだろうな。


 それから僕達三人は、あまり思い出したくもない昔話に花を咲かせていると。


「し、失礼します!」


 ノックもせずに、サモラーノ事務官が応接室に駆け込んできた。

 カサンドラ准尉の次にクールな彼女にしては、この慌てぶりは珍しいな。


「どうした?」

「は、はい! カラバカ砦に入場していた三万の兵が、かなりの進軍速度で王都に向けて引き返していきました!」


 はは、読みどおりだ。

 やっぱりオルレアン帝国は、タワイフ王国に侵攻を開始したか。


「やれやれ……結局私は、くたびれ損だったな」

「あ、あははー……」


 肩を(すく)めて退屈そうにするノリエガ先生(・・)に、僕は苦笑するしかなかった。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ