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ネズミの尋問

「ベルトラン将軍、仕事をサボって飲むアイランは美味しかったですか?」

「…………………………」


 結局、タイラン将軍(パシャ)に捕虜として受け入れてもらえなかった僕は、すごすごとサン=マルケス要塞に戻ってくるなり、カサンドラ准尉に説教されている。


「見てください。将軍がいらっしゃらない数時間の間に、こんなにも書類が溜まってしまいました」

「え? ちょっと待って? さすがにそれはおかしく……はないね。うん」


 机を埋め尽くすほどの書類の山を、ほんの数時間で発生したと(のたま)うカサンドラ准尉に抗議しようと思ったけど、ギロリ、と睨まれてしまい、僕は素直に受け入れた。

 というか、サラス少尉とサモラーノ事務官はどうしたんだよ。ちゃんと仕事しろよ。


「それで……何か分かりましたか?」

「ん? ああ……ひとまず気になることがあるから、例のネズミ(・・・・・)に話が聞きたいんだけど」

「分かりました。すぐに手配します」


 打って変わっておずおずと尋ねるカサンドラ准尉にそう告げると、彼女は敬礼して執務室を出て行った。

 たったこれだけで僕の意を汲んでくれるんだから、間違いなく優秀なんだけど……うん、もっと優しくしてくれたらなあ……。


 などと、ないものねだりをしながら待つこと数分。


「将軍、ネズミを拘束した状態で取調室に入れておきました」

「ありがとう。じゃあ行こうか」

「はい」


 僕はカサンドラ准尉と一緒に、地下にある取調室へと向かう。


「そうだ、君には話しておこう。タイラン将軍(パシャ)から聞いたが、この前の軍勢はタワイフ王国内務大臣であるミハイル=タラートという男の差し金だそうだ」

「そうですか……」


 それを聞いたカサンドラ准尉は、親指の爪を噛みながら思案する。

 あはは……この癖、七年前から変わってないな。


「なるほど……つまり将軍は、あのネズミ(・・・)からその男に関する情報を聞き出すおつもりなのですね?」

「んー……ちょっと違うかな」

「? 違うのですか……?」

「ああ。まあ、(そば)で聞いていてよ。おっと、ここだな」


 予想が外れ、首を傾げる彼女と一緒に、ネズミ(・・・)の待つ取調室へと入った。


「やあ、しばらくぶりだね。“ラバル”伍長」

「…………………………」


 ネズミ(・・・)の名前は“アリエル=ラバル”。

 父上が存命だったころから配下となっている、古参の下士官である。


 もちろん僕が配属になってからも、彼の長年の経験と勇猛さにより戦場では何度も助けてもらった。


「さて……君に聞きたいことがあるんだが、素直に答えてくれるかな?」

「…………………………」

「ふむ、ダンマリか。じゃあ僕が一方的に話をさせてもらうとしよう」


 目を伏せるラバル伍長に対し、僕はこの前のタワイフの軍勢の一件についてつらつらと話す。

 まず、あの六千の軍勢はタワイフ王国の王都から直接派兵されたものであり、カラバカ砦とは関係がなかったこと。

 派兵を決定したのは内務大臣のミハイル=タラートという男であり、エルタニア皇国とタワイフ王国の国境全てに戦線を拡大しようと企んでいること。


 そして。


「……ラバル伍長。君はここを戦場にするように指令(・・)を受け、あの三千の騎兵を要塞内に招き入れようとした。そうだな」

「へへ……そこまで分かっているなら、わざわざ俺に話を聞く必要があるんですかい?」

「伍長! 口を慎みなさい!」


 軽口を叩くラバル伍長を見かねたカサンドラ准尉は、机を思いきり手で叩いて険しい表情を見せた。


「まあまあ。それで、ここからが本題だけど……君が指令(・・)を受けたのは、ミハイル=タラートなんて奴じゃないよね?」

「……当たり前だろ? 俺みたいな下っ端が、そんなタワイフのお偉いさんとやり取りをするなんてあり得ねえ」


 僕は戦場で叩きあげられた見事な面構えを(のぞ)き込みながら尋ねると、視線を合わせようとせずに彼は苦笑をしながらかぶりを振った。


「あはは、そうだよな。だって君が指令(・・)を受けたのは、タワイフの連中ではなくてエルタニア(・・・・・)側の人間(・・・・)で、ただ共倒れさせたいだけなんだから」

「っ!?」


 口の端を持ち上げながら告げた瞬間、カサンドラ准尉と同時にラバル伍長が僅かに息を呑んだ。

 はは、やっぱりね。


「しょ、将軍、それはどういうことですか!? どうしてエルタニアの者が、伍長にそんな指示を! しかも、共倒れだなんて一体どういう……」

「簡単だよ。タワイフ王国と共倒れになるまで、戦争をしてもらわないと困ると考えている連中がいるってことさ」


 そう……タイラン将軍(パシャ)から話を聞いた時、僕は違和感を覚えた。

 いくらオルレアン帝国に対抗するためとはいえ、国境全体で戦端を開いて無謀な短期決戦を挑もうだなんて、余程の戦闘狂でなければ考えたりはしない。

 特に、国内の内政事情に精通している内務大臣であるならば、絶対にあり得ないことだ。


 なのに、ミハイル=タラートという男はそれを画策した。

 考えられるのは、それだけ戦線を拡大して短期決戦を挑んでも勝てる公算があるか、あるいはそもそも勝つつもり(・・・・・)がない(・・・)かのどちらかだ。


「で、さすがに僕も思惑がどちらにあるのか分からないので、かま(・・)をかけて言ってみたんだけど……どうやら当たりだったみたいだね」


 ジッと僕を見据えるラバル伍長に、お返しとばかりに鋭い視線を向けた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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