とある解答
俺は教師だ。
今はテストの採点中。
だが、悩んでいる。
俺はテストの採点中にとある解答を知って、頭をかかえていた。
まさか、こんな解答を解答欄に書くやつがいるとは。
前々から変わっている生徒だなとは思っていたが、特に今はそう思う。
テストにかかれた問題は特に、珍しいものではない。
ありふれた問題だ。
それは、テスト問題を作っている時に、点数配分を考えた後、遊び心で付け足したものだ。
成績に直接影響はなくて、テスト問題を解く生徒達の息抜きにと用意したものだ。
その問題は。
ケンカしている相手の友達が次の日に引っ越すとしたら、この物語の主人公はどう行動すべきか?
というものだ。
国語の教科書に出ていた内容にもあったもので、友達と喧嘩した少年の話が題材になっているのだが。
少しファンタジー要素もあって、友達の心が分かる妖精がいるのだ。
だから、この場合の答えとしては。
その妖精を捕まえにいく。
とか、その妖精を友達にする。
とかそういう解答が書き込まれる事が多かったのだが。
A:殴り合って友情を深める。殴り合って、自分が正しいという意見を貫く。殴り合って、ボコボコにして憂さを晴らす。
その生徒の解答は問題しかないものだった。
(なんで殴る選択ししかないんだよ!?)
俺は実際「はあああああ」と深いため息をついてしまった。
テスト採点は職員室で行っているので、他の先生に訝し気な視線をもらってしまった。
この生徒、絶対ろくな大人にならないだろうな。
分かっているけれど、教師ができる事には限度がある。
干渉しすぎると親からクレームがくる。
しかし、まったく関わらないでいるのもクレームがくる。
ちょうどいい距離感を保つ、といってもそれでは指導が必要な生徒に、必要な勉強を受けさせられない。
昔だったら、熱血先生などは美談の存在として持ち上げられることろだが。
今の時代はその辺り踏み込み過ぎると、危険。
現代の教育事情はドライなのだ。
「どうしたもんかな」
俺はその解答の事を考えながら、悩ましい気持ちでテスト採点を続けていった。
テストの問題には大体の解答が用意されるが、現実の問題には解答が存在しない事が多いのだった。