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さよならクソデカ自意識君。そしておかえりクソデカ自意識君。

会社と学生のよりスムーズなマッチングの為に、就職活動を迎える学生達はその人となりを調査される事となった。

人の顔と名前を覚えられない。グループワークで他人の意志を蔑ろにする。誰とも喋った事を見た事が無い。課題も試験も他人に寄生してやり過ごそうとする。

先天的なものであるのか、単純にその人の本質であるのか。何にせよ、そのようにして協調性が無いと判断されれば最期、就職活動は酷く難航すると言わざるを得ない。

しかしながら、幸い今年度からはそれを挽回するチャンスを与えられた……のだが。

「貴方達にはこれから一ヶ月間、共同生活を行って貰います」

…………蠱毒かよ。

 自分の事を嫌いと言っている奴のどれだけがそんな自らを直そうとしているのだろうか。

 嫌いと言いながらそんな自らを直そうとしていない奴は、結局のところ『私はこんなもんじゃない!』だとか『本気を出せばもっと俺はやれるんだ!』とか言う、オナニーレベルのクソ寒いアピールをしているだけか、嫌いな自分と嫌々同居している事に諦めて、自らの作った行き止まりに座してもうそこから動かない事を決めた馬鹿だ。


 俺は俺の事が嫌いだ。

 直そうとしてみた時もあったが、そうして気付いた俺の嫌いな部分というのは、俺の本質としての自己愛に紐付いていた。要するに俺は自己中心的な奴で、他者の事など強く意識しないと配慮出来ない人間であったという事だ。

 俺は俺の事を好きになれない。

 その諦めと共に、俺はその嫌いな部分をせめて人前では見えないように努力するようにした。そうすれば、多少ではあるが、その嫌悪感は薄れてくれた。

 そう、俺は凡百とは違うのだ。ただグチグチ現状に不満を言うだけに無駄なエネルギーを費やす愚か者ではなく、前を向いて行動している。行き止まりに立ち塞がったとしても、戻るだけの気概も持ち合わせている。

 けれども、そんな事をもっと凄い奴等は無意識の内にやっているという事にも気付いてしまった。毎日毎日をそうした成長に自然と費やし、季節を経れば新しい技能でも身につけている、そんな奴等は他者と比較するという低俗な事に一喜一憂しないし、そもそも比較するという発想自体が無い。

 そんな奴等はやはり自己中心的である。どれだけ自分が成長出来るのか。ただただそれだけを追い求めてキラキラとした目で前を向き続けている。

 ……そう。俺の一番の不幸は、俺が自己中心的な人間だと気付いてしまった事だ。

 短所は強調してしまえば長所に化ける事もある。

 それに気付いたのは、俺がすっかり猫を被る事に慣れた頃であった。

 長い長い行き止まり。俺は凡百である事を認めたくない。だが、この来た道のりを戻る事は……正直したくない。


*


 西暦2143年。万化7年。

 純粋な日本人の人口は5000万にまで減少する代わりに、少子高齢化もひとまずは落ち着いた時代。

 労働人口の減少による人手不足はAIによる業務の自動化により賄われ、その代わりに単純作業の労働は大半が無用の代物となった時代である。

 それに伴い、社会の求める人物像は過去よりも遥かに複雑化し、今や転職は当たり前、自らに合った会社は転職を幾度と繰り返しながら探すものと成り果てていた。

 当然、そんな状況では生産性はだだ下がりになる一方で、早急な改善が求められる。

 それに対する政府が打ち出した政策として、就活前の学生は公的機関での人となりの調査、名付けて社会特性調査プログラムが実施される事となった。

 来年度に就活をする予定の学生達が各所にて集まって一定期間、赤の他人との共同生活、共同作業をする。

 その結果に基づいて、就活生の人物像を事細かに記載した書類、公式には社会特性シートと呼ばれるものが付与され、それは履歴書と共に任意で提出するものとして扱われた。

 そして数年が経ち、その成果が経済への活気として顕著に現れ始めれば。

 それの為に就活が上手くいかなかった学生達の怨嗟などは完全に無視され、提出は義務に等しくなり果てた。


*


「……分かっていたけどさぁ、こうも眼前に突きつけられると流石に凹むわ」

 眼前にある紙は返ってきた社会特性シート。

 他人に関心を抱くことがない。積極的に気にかける事もない。辛うじて社交性と協調性は最低レベルにはある。

 レーダーチャートは地球にマリアナ海溝を象っているよう。羅列された文言は俺が上辺だけでも隠し通そうと頑張ってきた性質を無惨にも曝け出している。

 貴方はこれまで人間関係をどうにか誤魔化してやりくりしてきた人間ですね! でも、それじゃあ社会では通用しませんよ!

 オブラートを剥がせばそんな事を言われているようだった。

「おーい、長野ー、検査結果どうだったー?」

「……見て笑えよ」

「……おおう。お前ってそんな奴だったんだな」

「宮城も分かってたんじゃないか? 思い当たること、一つや二つはあるだろ」

 誤魔化しきれているとは思っていない。

「そういやお前……人の名前を滅多に呼ぶこと無いよな。教授に伺う時ですら、近寄ってすみません、とか言うことあるよな。もしかして教授の名前も覚えてない?」

「石川。でもな、時々人の名前、ど忘れするんだよ。マージで思い出せなくなる」

「もしかして、俺の名前も? 本名言えるか?」

「宮城……………………涼太」

「……本当に苦手なんだな」

「お前はどうなんだ、お前は」

「ほれ、つまんねえ評価だよ」

 ……おお。レーダーチャートはまんまるい地球。面積で言ったら、俺より僅かに広いか。

「協調性以外はお前に負けてるんだよ。お前の地頭が良いのは誰だって知ってるんだから、元気だせよ」

「その協調性とやらが社会においてどれだけ大切なのか知ってたら、元気出せねえよ……」

 その地頭だって、他人より少し要領が良いって程度だ。そんな欠けた協調性を補える程の尖った長所じゃない。

 人生詰んではいない。ただ、結構崖っぷち。そんな大学三年の秋。

 クソ。

 その時、ブブブ、とデバイスが鳴った。

「ん? ……なんだこれ」

 大学から来た通知。

「俺には来てないぞ」

 その時点で嫌な予感がした。配信の中身を隣から覗き込まれる。

「…………」

「あー……まあ、頑張れ!」

 タイトルは『社会特性シートの結果に関する連絡』。

 本文の一行目には『この配信は、社会特性シートの結果に不都合がある学生を対象に送っています』。

 この時以上に大きく溜息を吐いたのは、記憶になかった。


*


 後日。指定された時間に指定された講義室に入ると、ちらほらと人が入っていた。

 俺が知っているような奴も幾らか。

 いつでも早めに出席していて、一人で一番後ろの隅を陣取っている小柄な男。昼はいつも一人で親が作ったような弁当を食べている。

 一番前の席で貧乏ゆすりをしている長身の男。目立ちたがりでグループワークの時に率先してチームリーダーを務めるが、結局自分のやりたい事や意見ばっかりを優先させている。

 扉から最も近い場所で寝ているのは、小太りの男。大抵の授業で基本寝ていて、課題もほぼほぼ他人に寄生している。

 窓際で本を読んでいるのは、数学系の授業では良くホワイトボードに答えを書いている姿を見かける大柄な女。優秀な人だと思っていたが……そう言えば、見かける事はあっても食堂でいつも何かを食べながら本を読んでいるくらいだな。

 他の講義室にも人が入っていくのが見えたが、要するにここは、とりわけ協調性が無いと判断をされた人達が集められているのだろう。

 はぁ、気が滅入る。マジで。

 他にもちらほらと人が入ってくる。協調性の無い人間、友人が少ない、または敬遠される人間。そういう人ばっかりが集められて。案の定誰も誰かの隣には座らない。

「……」

 課題をする気にもならない。名前を知っているのは数人。喋った事はあったとしても、課題でだけだ。

 寝ておく事にしよう。


 眠る前に扉の開いた音がして、顔を上げる。

 大学の事務員が数人。その中の一人が呟いた。

「少ないな……」

 それはそうかもしれない。自分の欠点を突きつけられる場所になんて、誰だって好んで行きたくない。

「……さて。時間もないのでさっさと始めましょうか。

 集められた理由は分かっているかと思いますが、貴方達は著しく協調性が欠けていると判断されました」

 ……本当にずかずかと言うなあ。

「貴方達の就職活動は、現状のままでは難航すると言わざるを得ないでしょう。

 それ程までに協調性というものは重要なものです。

 仕事をするにも、良かれと思ってやった独断が会社にとって大きな損失を生む。

 チームで働く際に、他者から話しかけ辛く、扱い辛い人材として見做される。

 無意識の内に人を不快にさせてしまう。気付かない内に孤立している。

 そのような可能性が高いと貴方達は判断されました。

 ……この中には、その協調性を補えるだけの能力を私は持っていると自負する方もいるかもしれません。

 しかし、それだけの能力というものは、貴方達が想像するよりも遥かに高いものです。

 他人より少し能力が高くても協調性が無ければ、平均的な学生の方が採用される。

 データがそう示しているから。その方がイレギュラーが少なく、期待値が高いから。

 それが今の就職活動です」

 吐き気がする。

「しかし、今年度から救済措置が試験的に導入されました。

 その欠点を、私は補う事が出来る。それを証明する為のプログラムに貴方達は臨む事が出来ます。

 勿論、社会特性プログラムと同様に、参加は任意です。

 協調性を補うだけの能力を持っていると自負しているのならば、参加しなくても良し。

 しかし、そうでないと理解しているのならば、参加した方が良いと私達は考えます」

 その事務員がデバイスに指を掛けた。

「文書を配信しました。詳細はそちらをご覧ください」

 早速その文書を開いてみれば。

 俺の目に真っ先に入ってきたのは、そのプログラム名でもなく、冒頭の文章でもなく、途中に記されている一行の文言。

『一ヶ月の、プログラム参加者同士での共同生活』

「プログラム参加者には、再び共同生活をして貰います」

 事務員がつらつらと話していく中。

 俺はぼんやりと、デスゲームに参加させられる人の心境ってこんな感じなんだろうな、とだけ思っていた。

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[一言] タイトルがまずキャッチーです。目がいきます。覚えやすく忘れにくい。 そして冒頭語りからもう自意識過剰が溢れかえっていました。 そこからの、わりと真剣な就活話。なるほど確かにここで一度ガツンと…
[良い点] いや、これは……純粋に見たい。この先を、続きを。 近未来として描かれていますが、きっと今の社会でも直面している大事な部分なんじゃないかな。 あはは! ほんと、本人からしてみればデスマー…
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