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ぬいぐるみだけど、ぽちっとな!

 私は今、異世界でハルという名で生活をしている。半年ほど前に、10歳の猫耳幼女になってこの街の近くの森の中に佇んでいた。異世界転移なのか転生なのかよく分からないけれど、それからは本当に色々と大変だった。

 元手芸屋勤務の私も、今は封印術師。だけど私の封印術スキルはどうやっても発動しなかった。


 仕方なく私は冒険者になって、毎日街での依頼を受けて宿屋で暮らしている。その依頼の中で運命的な出会いをした。


「しろくまちゃん、ジュース出して貰って良いかな?」

「く~」


 そう一鳴きすると、しろくまのぬいぐるみは自分の手でお腹をぱかっと開けてジュースを取り出して渡してくれた。


 この出会いによって、私の封印術がぬいぐるみに電化製品の機能を封印出来るスキルだと分かった。

 ここから私の生活はがらりと変わった。


「今日はどんな家電の子が出来るかなぁ」

 前略 地球に居るお父さん、お母さん元気ですか? 猫耳幼女になって異世界にいるけど、私は元気です。


 そんな手紙を本当に届けられたら、うちの両親はなんて言うだろう。面白そうだから楽しんで来い、とか言っちゃいそうだなぁ。いつも私に好きな事をして楽しみなさいと言っていた両親は、私が楽しんでいれば喜んでくれそうだ。


 今の私は8歳くらいの身長で、肩まであるストロベリーブロンドの髪に黒い猫耳と、おしりには黒いしっぽが付いている。きっと猫獣人ってやつなのだろう。猫だからなのか、ジャンプ力が上がっていてちょっと楽しい。

 異世界転生なのか転移なのかよく分からないけれど、半年くらい前に街の近くの森の中にこの姿で立っていた。最初は慣れない生活で色々大変だったけど、今では生活も落ち着いて少し余裕も出てきた。


 この世界の人達はみんな、自分にあった職業を神殿で授かる。私も神殿に行って職業を頂いたら、封印術師だった。だけど、封印術師ギルドでいくら教わっても全然使えなかった。スキルが発動する気配もなくて、ギルドの職員さん達もお手上げだった。

 仕方なく冒険者ギルドに登録して、子供でも出来る仕事を受けて生活費を稼いでる。日々宿屋暮らしだけど、宿屋の店主さんと女将さんがとても良い人達で毎日楽しく暮らしてる。


 今日の依頼は、手芸屋さんのお手伝いだ。日本に居るときは、手芸屋さんに毎日のように通っていたくらい手芸全般大好きだ。だから、しっぽがゆらゆら揺れちゃうくらい今日の依頼は楽しみ。


「おはようございます、依頼を受けたハルです。今日はよろしくお願いします」

「おはよう、私はエルナよ~。ハルちゃんのお仕事は、基本はレジになるわ。後は私だけでは手が回らなかったら、お客様の対応もお願いするわね~」

「はい、よろしくお願いします!」


 お客様の対応も、ある程度エルナさんからお話を聞いておいた。基本的に、日本に居たときの手芸屋さんと似ていたから何とかなりそうだ。一度お店の中を見て回って、色々な物の場所を覚えていく。


「あっ、こっちの世界にもぬいぐるみってあるんだ……ん、あれ?」


 お店の中にあったしろくまっぽいぬいぐるみを見た途端に、私の中の封印術スキルがピコン! と反応した。ついでに私のしっぽもぴょこんと動いた。

 もしかして、これになら封印出来るかもしれない。


「エルナさん、このぬいぐるみって売り物ですか?」

「えぇ、そうよ。私が作ったのよ~」

「これ、私が買っても良いですか?」

「ふふっ、良いわよ~」


 思わず買ってしまった。だけど封印術が使えるんだったら、ぜひとも試してみたい。さすがにお仕事中に試すわけにもいかないから、ぬいぐるみはお店の奥に仕舞っておいた。

 お仕事中もワクワクが止まらなくて、そわそわしてしまう。休憩時間になった途端、お店の奥に急いだ。


「本当にこのしろくまちゃんに封印出来るのかなぁ」


 わくわくしながらジーっとしろくまを見つめていると、ぴょこん! とボタンの付いたウィンドウが出てきた。突然の事に驚いて、危うくしろくまちゃんを落としそうになった。


「ん~と……冷蔵庫を封印しますか? どうゆうこと?」


 OKとキャンセルのボタンがあって、どちらかを押すってことだよね。

 冷蔵庫を封印ってよく分からないけれど、考えても分からないからやってみようかな。OKボタンを押してみると、しろくまが一瞬光った。


「なんか一回り大きくなったかな。でも、冷蔵庫ってどこ?」

「く~」

「えっ、鳴いた!?」


 しろくまちゃんは、手で自分のお腹をぱかっと開けてくれた。ぬいぐるみのお腹がぱかっと開くのは衝撃的すぎる。ぱかっと開いたお腹の中は見えないけれど、確かに冷気を感じる。

 せっかくだから、ジュースの入っているコップを入れて試してみよう。今はまだお仕事に戻らないとだから、しろくまちゃんにはここで待っていてもらおう。


 その後もお仕事をして、エルナさんと一緒にお昼ご飯の時間になった。しろくまちゃんの冷蔵庫からジュースを取り出してみようかな。


「あら? そのくまちゃん、そんなに大きかったかしら?」

「ちょ、ちょっと大きくなりました……よね?」

「そうねぇ。でもぬいぐるみが大きくなんてなるなんて、不思議ね~」


 おっとりとそう言われると、緊張していたこっちが脱力してしまう。でも、エルナさんなら本当のことを伝えても良いかなと封印術の事を説明した。これもおっとりと驚いてくれるエルナさんがかなり可愛い。


「しろくまちゃん、さっきのジュース貰っていい?」

「く~」

「えっ、お話も出来るの? ねぇ、ハルちゃん。私にも作ってくれないかしら?」

「出来るか分かりませんけど、試してみますね!」

「ええ、お願いね~。ぬいぐるみは早めに作っておくわ」

「はい!」


 エルナさんは目がきらきらして、とても嬉しそうだ。ぬいぐるみを作るくらいだから、きっと可愛いものが好きなんだろうな。私も可愛いものが大好きだから、気持ちはとってもわかります。可愛いぬいぐるみが動いて話してくれるなんて、可愛すぎて幸せすぎるもん。


 しろくまちゃんの冷蔵庫から出してもらったジュースは、冷え冷えでとても美味しかった。冷蔵庫があれば、食材も長持ちするしとても助かる。それに可愛い、これ大事っ!


 手芸屋さんでお手伝いをしていると、お客様達がみんな頭を撫でておやつをくれる。おばさま方みんな優くて大好きです。

 今日だけで1週間分のおやつを貰ってしまった。おやつなんて贅沢品、この世界に来てからほとんど食べていなかったからとても嬉しい。


 午後のお仕事を終わらせて、帰る前にお買い物をさせて貰った。ちょっと出費が痛いけれど、私も何か作れるように生地と裁縫セットを買った。

 この街の人達は、何も分からなかった私にとてもやさしくしてくれた。猫獣人でも気にせず笑顔で話してくれて、いつも気にかけて話しかけてくれる。私はこの街の人達が大好きだ。

 せっかく封印術が使えるようになって、日本に居たときの家電が作れるようになるのなら、みんなの役に立つ素敵な家電が作りたい。


 ただ……心配なの事が一つある。冒険者とかガタイの良いお兄さん達が、しろくまちゃんを抱っこしてたらどうしよう……笑っちゃいそう。


 手芸屋さんを出たら、冒険者ギルドで依頼達成の手続きをして貰う。冒険者ギルドに寄ったついでに、ステータスを教えて貰おう。冒険者ギルドでお金を払うとステータスとスキルを教えて貰えるんだよね。

 今日は色々と買っちゃったから、本当だったらこれ以上無駄遣いは出来ないんだけれど、これは必要な事だよね。


 出てきたスキルを見ると、前に調べた時に封印術師と書いてあった所が少し変わっていた。封印術師から封印術師(電化製品)と書いてあった。


「今頃チート来た?」


 少し大きくなったしろくまちゃんを両手で抱えるように抱っこして、しっぽを揺らしながら宿屋へ帰る。帰る途中、ほうきでお掃除をしている人を見かけて、閃いた。


「あっ、掃除機っ!」


 掃除機があると便利だし、みんな喜びそう。それに、宿屋の女将さんに渡したら喜んでくれそうだ。


「何だったら掃除機を封印出来るかなぁ。ゾウ……は何か違うなぁ、うーん」


 お夕飯を食べてお部屋に戻ったら、今日買ってきた材料をベッドの上に広げる。

 生地を見ながら考える。普通にホウキの形にしちゃうってのはどうかな? ちょっとやってみよう。ホウキのぬいぐるみをちくちくと作っていく。

 久しぶりの手芸は、やっぱり楽しくて時間を忘れて作っちゃった。出来たのは、30cmくらいのホウキのぬいぐるみだ。見た目はアニメとかに良くあるような、魔女のホウキを小さくした感じ。意外と上手く出来たのではないだろうか。


「ふふっ、ホウキのぬいぐるみ意外と可愛い」


 ジーっと見つめていると、やっぱり何かを封印出来そうだ。さらに見つめていると、ぴょこん! とウィンドウが出てきた。


「あっ、掃除機きたーっ!」


 早速OKボタンを押すと、掃除機を封印出来たみたい。女将さんには申し訳ないけれど、床に少し糸くずを置いてホウキを使ってみよう。


「どうやって動かすんだろう?」


 ホウキをあちこち見ていたら、持ち手の所にボタンを見つけた。

 ボタンをポチっとしてみると、床の上をくるくる回りながらゴミを吸い込んでいく。ホウキなのにごみを吸い込んでいくのが不思議でたまらない。


「えっと、これはアレだよね。床を自動で回って掃除してくれるお高いやつだよね。よしっ、名前はルンちゃんにしよう!」


 アレから名前を取っても、この世界で知っている人なんていないから良いよね。ルンちゃんを見ていると、部屋の床を掃除し終わるとドアの横まで行ってピタっと止まった。


「すごい、自動で戻る機能まであるんだっ!」


 これは、まずは女将さんに渡そうかなぁ。もう一つホウキのぬいぐるみを作って封印術を使う。無事にもう一つのルンちゃんを作る事が出来た。


「よし。これでエレナさんにも、しろくまちゃんを作ってあげられそうだね!」


 終わった途端、頭がぼーっとしてきた。さすがに夜更かししすぎて眠い。

 しろくまちゃんをむぎゅっとして寝ようかな。冷蔵庫機能が付いているはずなのに、むぎゅっとしても冷蔵庫部分には当たらないのが不思議。しかもエレナさんの作ったしろくまちゃんは、生地がふわふわでとっても気持ちが良い。久しぶりにもふもふに癒されてぐっすり眠れそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 転生幼女チート持ちのお話でした。しかも見た目も猫耳つきでぬいぐるみに付加価値をつけられるだなんて、可愛いのてんこ盛りです。本当に可愛い。 これだけ可愛くて、ものすごい便利なチートを持っている…
[良い点] やわらかい文体で、とても読みやすかったです。異世界にきたけれど、すごく前向きなんですね〜。愛されて育った主人公、という感じがします。 あ、優しい世界なんですね、ほのぼのとした日常の中で、こ…
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