08:謝る王子
シャーロットは慌ててリオンを突き飛ばした。
土の地面に尻もちをつき、手も土によって汚れたリオンは、不快さに美しい顔を歪ませた。
「なにす――」
リオンが怒鳴ろうとしたその時。
ドカン!
リオンが踏みつぶした植物が爆発した。
「え?」
黒煙を上げ、シュウシュウと音を立てる植物があった場所を見て、リオンが呆けた顔をする。
その場所は土が抉れ、周りの植物もいくつか燃えていた。爆発のときの巻きあがった土がリオンとシャーロットに降り注いだおかげで、二人とも全身土まみれだ。
リオンの高価な白いタキシードは見るも無残な姿だし、おそらくシャーロットも同じだろう。あんなに頑張ってシャーロットを磨き上げたアンナが可哀想だ。
シャーロットは大きく息を吸い込んだ。
「この、馬鹿!」
耳の近くで発せられた怒声に、リオンは耳を抑え込み、目を見開いた。
「な、な、な」
言われたことが信じられないのか、リオンが目を白黒させている。
「ば、馬鹿って言ったか!?」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの! あなたも王子なら、警戒心というものを持ちなさい! 普通の人より危険が多い生活のはずなんだから!」
シャーロットの家は薬の開発を行っている。ここにある植物も、研究材料にされているものだ。珍しいものも多く、先ほど爆発したものもその一つだった。
たまたま早くリオンを植物から遠ざけられたからよかったけれど、そうじゃなければどうなっていたことか。
王族ならむやみやたらに物を触らない。それぐらい、自分の身を守るために、身に付けてほしい。
「な、なんだよ……」
シャーロットの剣幕にリオンがたじろいだ。今まで叱るということをほとんどされたことがないのだろう。リオンの周りはリオンのすることを肯定する人間ばかりだった。もしかしたら叱られるのは初めてなのかもしれない。
シャーロットに叱られて、強気だったリオンも、勢いをなくした。
「……かった」
「え?」
とても小さい声でリオンが何か言ったがシャーロットには聞こえなかった。リオンはもじもじとしながら、もう一度口を開いた。
「だからっ……るかった」
「なに、聞こえない」
本当に声が小さくて聞こえない。聞かせる気があるのかと思うぐらいだ。
リオンは何度も言わされて恥ずかしくなったのか、それとも怒りが湧いてきたのか、顔を真っ赤に染めながら、大きな声で言った。
「だから、悪かったって言ったんだ!」
謝るというより怒鳴るに近かったが、それはおそらくシャーロットが何度も聞き返したせいだろう。本当に聞こえなったから聞き返しただけだが、本人はくり返すのがとても恥ずかしかったのだろう。その気持ちを誤魔化すように大きな声を出したようだった。
ふうふう、と息を吐いているリオンを見ながらシャーロットは少し感動を覚えていた。
――この子、謝ることができたのね!
なんなら謝罪の言葉など知らないぐらいかもしれないと思っていた。
「何だ……あなた、悪いことは悪いと、わかるのね」