07:生意気王子
見るからに高級なのがわかる、シルクのハンカチ。周りはレースで縁取られており、右端のほうには王家の紋章が刺繍されている。それだけでこのハンカチの価値が高いことを表していた。
ハンカチの価値についてはひとまず置いておくことにして、ハンカチとリオンを見比べながら、シャーロットは訊ねた。
「なにをしているんですか? 小さいからまだハンカチを上手く掴むこともできないんですか?」
目の前でハンカチを出して落とすなど不器用にもほどがある。そしてわざとだったとしても、シャーロットには拾う必要がないので、遠回しに手があるのだから自分で取れと伝えたのだ。
リオンは顔を赤くする。
「そこまで小さくない! お前はどこまで俺を馬鹿にするつもりだ!?」
「あら、一応意味は伝わったんですね」
一応馬鹿にされたのはわかったのだな、と少しだけ感心した。通じなかったらどうしようかと思った。
「俺を馬鹿にしているのか?」
「違うのですか? 今までの行動からして賢いとは思えなくて」
「何だと……!?」
シャーロットは本気でそう思って言ったのだが、本人は自覚がないらしい。自分の思い通りにならないと癇癪を起こすところなど、とても賢いとは思えない。
「拾え」
リオンがもう一度言った。
「……まさか私にあなたがわざと落としたハンカチを拾えって言っているんじゃないですよね」
念のために、シャーロットは確認した。
「そのまさかに決まっているだろう」
なるほど。こちらは一応念押しして確認したからいいだろう。
シャーロットは深くため息を吐いて、目の前にあるハンカチを一瞥すると――踏みつけた。
「なっ!」
シャーロットの行動に驚いたリオンが驚愕の声を上げる。シャーロットは素知らぬ顔で告げた。
「わかっていただけないようなので、行動で示してみました」
「な、な、な」
口を金魚のようにパクパクさせたかと思うと、みるみるうちに怒りを露にした。
「お前、そんなことしてただで済むと思うなよ!」
「ただで済むでしょう。『あなたがたまたま落としたハンカチを私がたまたま踏んだだけ』なんだから。まさか、誰かに証言するときに、自分がわざと落として拾えと言っただなんて言わないでしょう?」
シャーロットの言い分に、リオンは悔しそうに歯を食いしばった。
反論できないところを見ると、シャーロットの言う通りなのだろう。
おそらくさきほど見た様子では、彼がわざと落としたから拾えと言ったと証言しても、みんな彼の味方をするのではないかと思う。
だけれど、彼はプライドが高い。だから、自分が歯向かわれ、言い負かされたなどと言えないだろう。そしておそらく、告げ口をするような行動はしない。
リオンは向けるべき怒りの行き先がわからないようで、手を強く握りしめ、ブルブル震えていた。
「ふん、こんなもの!」
そして、何を思ったのか、リオンはシャーロットが様子を見ていた植物を蹴った。
ここは薬草を育てている温室だ。様々な薬草があり、それぞれいろいろな特徴がある。
そう、中には危険なものも。
「危ない!」