05:王妃様と王太子様
「本日はようこそお越しくださいました。王妃陛下、王太子殿下」
人の好さそうなと表現されることの多い父が、やはり人の好さそうな顔で王妃とその息子である王太子に挨拶する。
一人一人家族を紹介するその姿は、どこか誇らしげだ。父は子煩悩である。シャーロットを紹介されたとき、シャーロットは自ら名を述べ、頭を下げた。
薬作りにしか興味のない変人な兄も、今日ばかりはしっかり正装をし、ビシッと父の隣に立っている。
母はどこかそわそわしている。
そしてシャーロットの頭の中はひたすらに「コルセットが苦しい」で埋め尽くされていた。
明らかにアンナは締めすぎた。これでは何も食べられない。せっかくごちそうが並んでいるのに。
しかしそんなことはおくびにも出さずに静かに頭を下げるシャーロットの前に、誰かが立った気配がする。
シャーロットはそっとその相手を伺い見た。
そこにいたのは、シャーロットより小さな麗しい少年だった。
まるでサファイアのような美しい碧眼でシャーロットを見つめている少年は、王妃陛下の美貌をそのまま受け継いだらしい。
さらさらの金の髪を靡かせ、綺麗な瞳を長いまつ毛で縁取っている。白い陶器のような肌に、程よく桜色に色付いた唇。少女だと言われてもわからない、可憐な子供だった。
――うわぁ、綺麗。
思わずそう口から出そうになるのをなんとか呑み込んだ。
今日ここに来ている王族は王妃様と王太子殿下。
つまり、この綺麗な男の子は王太子殿下に他ならない。
「頭を上げてください」
シャーロットに優しい声音でそう言う天使からは後光が差していた。眩しい。おかしい、綺麗な人間は光る者なのだろうか。
シャーロットは頭を上げながら目をちかちかさせた。
「はじめまして、俺はリオン。仲良くしてくれると嬉しい」
天使からそう言われて手を差し出され、シャーロットはその手を握るのを一瞬ためらった。何だかこの手を汚してしまいそうな気がしたからだ。
シャーロットは手に土などがついていないか確認すると、おそるおそるその手を握ると、リオンがふわりと笑った。
「と、尊い……!」
思わず口から零れ、父の「シャーロット!」という声にハッとする。
「し、失礼しました! シャーロット・オルドンと申します」
シャーロットは慌ててそっと手を離し、再び頭を下げて名を名乗る。
「そうか。可愛い名前だね」
またふわりと微笑まれながら言われ、シャーロットは思わず拝みたくなった。
――これは神が渾身の力を込めて生み出した存在に違いない!
シャーロットは崇めたい気持ちを抑えた。
「うふふ、子供たちは気が合うみたいね」
シャーロットとリオンの様子を見ていた王妃が楽しそうに笑う。
「シャーロット、もしよかったら、リオンと一緒に会場を回ってくれないかしら? 私はあいさつ回りがあるから」
「そうしてくれたら俺も助かるな」
王妃様と、その王妃様にそっくりな美しい顔がそろうと相乗効果がすごい。
キラキラ輝く二人に否と言えるはずがない。
「は、はい」
――のちにシャーロットはこのとき断らなかったことを死ぬほど後悔する。