番外編:本編直後
リオンと抱きしめ合いながら、シャーロットはふとあることに気付いて慌てて離れた。
「どうした?」
「ちょっと待って……」
シャーロットは衝撃の事実に気付いてしまった。
「リオンが結婚できるようになるまであと1年よね?」
「そうだな」
「じゃあ……私あと1年しか妃教育期間がないってことじゃない!?」
本来長い時間をかけて行われる妃教育。それがたった1年。
死ぬ。
いくら少し経験しているといっても死ぬ。
「……やっぱりリオンが18歳になったぐらいに」
「待たない」
「そ、そう」
即答されてそれだけ求められているのだと思ってうっかり嬉しく思ってしまった。
が、それどころではない。
「でも今からやってもとても身につくものじゃないわよ?」
シャーロットの言葉に、リオンは気まずそうに視線を逸らした。
「あー……怒らないということを約束してくれるか?」
「なんでよ」
「いいから!」
「わ、わかった……」
リオンの押しに負けてシャーロットは頷いた。
「妃教育、もうほとんど終わっているんだ……」
「は?」
小さい声で言われたがしっかり聞こえた。
「え? どういうこと?」
「だ、だから今までのシャーロットがやってた勉強、妃教育で……」
「はああああ!?」
シャーロットがリオンに詰め寄る。
「どういうことなのそれ!?」
「は、初めて会ったときから嫁にしようと思っていたから」
「はい!?」
「父上も母上も賛成してる」
シャーロットは勉強が始まったときを思い出していた。
あれは確かリオンに出会ってすぐ始まった気が……?
「そんなに前から!?」
「うん……」
リオンが少し申し訳なさそうな顔をする。
ーー待って、じゃあ私初めから外堀埋められていたじゃないの!
「あっ、でも待って!」
シャーロット妃教育以外にももうひとつの懸念があることに気付いた。
「私の家、男爵家よ? 身分差が……」
「ああ、それは問題ない」
リオンが言い切った。
「爵位は本当は元々侯爵位をあげる予定だったんだ」
「え?」
「シャーロットのお父上が、低い爵位でのんびりやっていきたいと断ってきた。だからこちらも男爵家を与えるにとどまっただけで、シャーロットのお父上が承諾したらすぐに問題解決するだろう」
「…………」
全て問題解決していた。シャーロットが知らなかっただけで。
しかしなんだろう。この釈然としない気持ち。
「……ごめん」
無言のシャーロットに何を思ったのか、リオンが謝る。
「勝手にいろいろして……でも、シャーロットが好きだからで……」
おどおどとリオンがシャーロットを上目遣いで見る。
おそらく本当ならシャーロットは怒っていただろう。やったのがリオンでなければ。
ーーこれも惚れた弱みね。
「最後まで大事にしてくれないと承知しないからね」
「シャーロット!」
嬉しそうにシャーロットに抱きつくリオンを可愛いなあと思いながら抱きしめ返すのだった。




