38:両思い
ハロルドと別れたシャーロットは、リオンを探していた。しかし、なかなか見当たらない。
――帰った? いえ、王家主催だから、最後までいるはずだわ。
別のところを探してみようと振り返ったとき、誰かに当たり、そのまま勢いで倒れこんだ。
「きゃっ! ご、ごめんなさい!」
ぶつけた鼻を押さえながら起き上がり謝ると、目の前には碧眼の綺麗な瞳があった。
「リ、リオン……!」
探し人が自分の下にいる。シャーロットは慌てて上からどこうとしたが、リオンの手がそれを阻む。
「シャーロット……少しでいいから、このままでいてくれないか」
リオンの切なそうな声に、シャーロットは動きを止めた。
どうしよう、ドキドキする。
なんて言えばいいのかわからない。だけど、きちんと伝えなければ。
「あの、私」
一生懸命頭で考えようとするがまとまらない。これが恋というものなのだろうか。
「リオンに言いたいことがあるの」
シャーロットの言葉に、リオンはごくりと唾を飲み込んだ。
「ちょっと待ってくれ」
シャーロットの言葉を遮るようにリオンが言う。シャーロットはその言葉に頷いた。
「シャーロットがッ」
ちょっと声が上ずった。気付いた本人が咳ばらいをする。
「シャーロットが……シャーロットが俺のことを弟のように思っているのは知っている。だけど、言わせてほしい」
リオンは真剣な目でシャーロットを見つめる。
「好きだ」
シャーロットが息を飲んだ。
「俺は、シャーロットが好きだ」
聞き間違いではない。
リオンは、まだシャーロットを好きだと言ってくれている。
一度フラれた相手に再度想いを告げるのはどれだけの勇気がいるのだろう。
リオンの気持ちを思うと、泣きたくなった。
「あの、私も、好き……」
照れくさくてむず痒くて、シャーロットはもじもじしながら小声で告げた。
言えた! 言えたわ!
心の中で己をよくやったと褒めた。
そしてそわそわしながらリオンの様子を伺うと――リオンはぽかんと呆けている。
「リオン?」
「夢か?」
ぽけっとしているリオンに不安になって声をかけるとほぼ同時に、リオンも声を出した。
リオンは何やらうんうん一人で頷いて納得している。
「そうか、俺はきっと今夢を見てるんだ」
「リオン、落ち着いて」
なぜか現実逃避を始めたリオンの頬を、シャーロットがつねる。
痛みにその美しい顔を歪めたと思うと、次の瞬間には嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「い、痛い……夢じゃない!」
現実だと気付いたリオンが、驚愕の声を上げる。その様子が微笑ましい。
「リオン、好きよ」
シャーロットが改めて告げる。
リオンは存在を確かめるかのように、シャーロットの頬を撫でた。
「ほ、本当に……? だって、友達だって……」
確かにそう言ったのは自分である。リオンを傷つけた過去の自分を殴りたい。
「この間は自覚してなかったの……ごめんなさい……」
申し訳なくて、頭を下げる。
どれほど傷ついたことだろう。シャーロットには想像もできない。いや、リオンにフラれたらと考えたら心臓が止まりそうになるから、きっとリオンはとても辛かったはずだ。
シャーロットが鈍かったせいで、みんなを傷つけてしまった。
「そんな、そんなことどうでもいい……!」
リオンは慌てて頭を上げさせる。
「シャーロットが! 俺を好きだって!」
リオンが興奮した様子でシャーロットに抱き着いた。
「今すぐ結婚しよう!」
「馬鹿! 結婚は十五歳までできないでしょう!」
この国の結婚できるようになる年齢は男女ともに十五歳からだ。社交界デビューと同時に可能になるのだ。
シャーロットは十九歳だが、リオンは今十四歳。まだあと一年残っている。
リオンが少し落ち込んで、シャーロットを離すと、おずおずと顔を覗き込んできた。
「……あと一年、待っててくれるか?」
おそるおそる訊ねる様子が可愛くて、シャーロットはにこりと笑った。
「当たり前でしょう! いくらだって待ってあげるわ!」
そうして今度はシャーロットがリオンに抱き着いた。
「シャーロット……好きだ」
リオンがもう一度言って、シャーロットの背に手を回して力強く抱きしめた。
「私も好きよ!」
シャーロットが叫ぶように言う。
今まで言えなかった分を……リオンからもらった想いを返すように。
シャーロットとリオンは、二人で見つめ合って、大きな声を出して笑った。




