32:ハロルドの告白
シャーロットの元婚約者の名前を、チャールズ→リチャードに変更しました。
今日も今日とて婚約者探しという名のパーティーである。
「で、どうしてリオンもいるの?」
シャーロットは自分に張り付いているリオンに声をかけた。
「べつにいいだろ」
「いやよくないでしょう。あなた社交界デビュー一応まだでしょう?」
「王太子になったらそんなことなあなあになるんだよ」
勝手になあなあにしているのだな、とシャーロットは呆れかえった。
なんだかんだ理由を付けて、いつもシャーロットの参加するパーティーに同伴している。
これでは婚約者探しどころではない。
しかし今日こそは頑張らねば! とシャーロットは気合を入れた。
どうにかリオンから離れようと画策する。
と、そのとき女性たちの甲高い歓声が聞こえた。
なんだろうとシャーロットがそちらに視線を向ける。
そこには花束を携えたハロルドがいた。
「ハロルド……?」
パーティーに花を持参する人間はそうそういない。
いるとしたらそう――
「シャーロット」
ハロルドがシャーロットの前で跪いた。
そして手にしたバラの花束を差し出した。
「僕と結婚してください」
真剣な表情でシャーロットを見つめるハロルド。
パーティーに花を持参する人間はそうそういない。
いるとしたら――それはプロポーズをするときだ。
「え……?」
シャーロットは突然のことに驚きの声しか出せない。
シャーロットの前に跪いたハロルドはもう一度口を開いた。
「僕と結婚してほしい、シャーロット」
聞き間違えではない。ハロルドは今確かにシャーロットにプロポーズしている。
「ま、待って……もしかしてこの間の話を気にしているの?」
この間シャーロットが相談したせいだろうかと思ってそう訊ねるも、ハロルドは首を振る。
「いやそうじゃない。僕は前からずっとシャーロットのことが好きだったよ」
初耳だ。
まさかハロルドが自分のことをそう思っていたとは知らなかった。
まったく想定していなかった事態にシャーロットはどうしたらいいのかわからない。
オロオロしているシャーロットの手を誰かが握った。
「……リオン?」
シャーロットの隣にいたリオンがシャーロットの手を握っていた。
「いくぞ」
そしてそのまま手を引いてその場を去ろうとする。
「え!? ちょっ、ちょっと待って!」
まさかこの状態でハロルドを置いていくわけにはいかない。
シャーロットがその場で踏ん張ると、リオンが不快そうに眉間に皺を寄せた。
「何だ?」
「何だ? じゃなくて! 今ハロルドと大事な話をしてるから!」
「全然大事じゃないだろう」
「大事ですけど!?」
プロポーズが大事じゃないことがあるのだろうか。
――それにこの場でハロルドを一人置いていったらどんなにみじめかわからないの!?
プロポーズした相手に返事もされず去られるのは不名誉だ。
こんなに目撃者がいるのに、ハロルドに恥をかかせるわけにはいかない。
この場を去りたいリオンとハロルドを一人にできないシャーロット。そしてそんなシャーロットのすでにリオンと繋がれている手と反対の手を握る人物がいた。
ハロルドだ。
「シャーロット、返事を聞きたい」
シャーロットはたじろいだ。今までハロルドをそういう目で見たことはないのだ。
婚約者に困ってはいるが、だからといって自分を好いているハロルドと婚約していいものか。
シャーロットが答えに困窮していると、リオンがシャーロットの手をさきほどより強く握った。
それに気付いたハロルドが、リオンに視線を向ける。
「邪魔しないでくれますか、殿下」
「邪魔はそっちだろう」
リオンがハロルドに噛みつく。
「今まで指をくわえて見ていただけのくせに」
「それだけじゃ手に入らないと気付いたんですよ。それに外堀ばかり埋めるあなたに言われたくない」
ハロルドが笑う。
「あなたがほしいように、僕だって手に入れたいんだ」
「今までのようにおとなしくしていればいいものを……」
「僕だって必死なんです。あなたもそうでしょう?」
リオンが押し黙る。何の話かシャーロットにはわからなかった。
「あ、あの……!」
シャーロットが勇気を出して間に入り込む。
「そ、その……全く考えていなかったことで……今すぐには応えられないの……」
「それでいいよ」
ハロルドはあっさり引き下がった。
「今日君とどうこうなろうと思っていたわけじゃないんだ。ただ、逃げ場がない状況で、君に僕の気持ちを知ってほしかった。これからのことはゆっくり考えてほしい」
その言葉にシャーロットはほっと息を吐いた。
と、リオンが繋がった手を引っ張って歩き出した。いつの間にかハロルドの手は離れていた。
「ちょっと!」
リオンに引っ張られる形で進むシャーロットが不満の声をあげる。
「シャーロット」
引きずられるシャーロットに、ハロルドが声をかける。
「僕は君が好きだ。そのことをいつも忘れないで」
その言葉に返事を返せないまま、シャーロットはその場をあとにした。
◇◇◇
「ちょっと! いつまで歩くの!?」
パーティー会場を抜けて、庭園のはしっこまで引きずられたシャーロット。
シャーロットの訴えに、ようやくリオンが足を止めた。
「お前、あいつと結婚する気なのか?」
リオンの問いかけにシャーロットはどう応えようか少し迷った。
ハロルドのことは嫌いではない。でも恋愛感情で見たことも、将来の夫として見たこともなかった。
「それは……わからないけど……」
「何でわからないんだよ。自分のことだろ?」
「だ、だって急だったもの……!」
リオンの言い方にシャーロットがムッとする。
「でもハロルドと結婚できたらそれがいいのかも……家族仲もいいし、ハロルドは優しいし、理想の夫よね……」
考えるとこれほどいい条件はないだろう。ただシャーロットの気持ちが状況に追い付いていない。
「なんだよそれ……あいつのどこがいいんだ?」
「なんだって……ハロルドはいい人よ! かっこいいし、家柄も申し分ないし、悪いところのほうが少ないじゃない」
不機嫌さを隠さないリオンに、シャーロットも語気が荒くなる。
誰に聞いても、むしろシャーロットにはもったいないと言われるだろう。
「俺のほうがかっこいいし、家柄だっていいだろう」
「何張り合ってるのよ」
確かにリオンはかっこいい。圧倒的にかっこいい。好みもあるだろうが、シャーロットも、美しさで言ったらリオンの右に出る者はいないと思っている。正直隣に並びたくない。自分は霞むというより存在が消えた気になる。
家柄に関しては言わずもがな、この国で一番いい。なんていったって王太子だ。これ以上いいものはないだろう。
しかし、それで張り合って何になるというのだ。リオンはリオンであって、ハロルドはハロルドだ。
それぞれのいいところがある。
「俺は反対だ。今すぐ断ってこい」
「何でリオンにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
断る断らないにしても、それはシャーロットが決めることだ。リオンに言われる筋合いはない。
「大体、ハロルドのことをいい人、って言うってことは、好きじゃないんだろう?」
痛いところを突かれた。
確かに現在シャーロットにハロルドへの異性に対する好きという気持ちはまだない。告白されたが、今だ大事な家族で友達という感覚が抜けない。
「そ、それはそうだけど……でもそれはこれから育めばいいものだもの」
そうした愛の育み方もあるはずだ。実際貴族の間ではよく聞く話だ。政略結婚だって多いのだから、結婚後から恋愛することだってある。
「そんなにハロルドがいいのかよ!」
「なんなのよさっきから! 何が気に入らないの!」
シャーロットも段々腹が立ってきた。なぜこうも責められなければいけないのか。
「私たちただの友達なのに、そんな指図を受ける筋合いないわよ!」
誰どうするか決めるのはシャーロットだ。リオンがどんなに反対しても、どうするかはシャーロットが決める。
リオンは悔しそうにぐっと歯を噛み締めた。
「俺は」
リオンが拳を握るのがわかった。
「俺はシャーロットが好きなんだ」




