23:強いアンジェラ
「シャーロット! わたくしとリオン様の仲を取り持ちなさい!」
「えぇ……」
リオンと遊ぶ日。
リオンの勉強中、シャーロット自身も勉強をして、ちょうど終わってくつろいでいると、アンジェラが現れた。
さすが公爵家の娘。王城へはわりと気軽に入れるようで、シャーロットがアンジェラの家に行ったあとからたびたび訪れているらしい。
もしかしたら、リオンの遊び友達の一人に数えられているのかもしれない。実際何度か一緒に遊んだ。
「仲を取り持つって……」
「そのままの意味ですわ!」
アンジェラは鼻息荒く、備え付けのソファーに座った。
「わたくしはリオン様と良い仲になりたいのです!」
「良い仲」
「はっきり申しますと恋し焦がれる間柄になりたいのです!」
「詩的」
「シャーロット! 話の腰を折らない!」
ピシャリと言われ、シャーロットは静かに聞くことにした。
「わたくしがリオン様に惚れ込んでいるのは知っての通りです」
「はあ……」
「ですが現状完璧な片思いです」
ふう、と美少女が息を吐くと絵になるな、とどうでもいいことを思った。
「なので、シャーロット、わたくしとリオン様が両想いになれるように協力しなさい!」
「どうして私が……?」
「あなたがわたくしとリオン様に近い間柄だからです」
はっきり言って面倒くさいな、と思ったが、それが顔に出てしまったらしい。幼いながらに美しい顔を険しくしながら、アンジェラが声を張り上げた。
「わたくしと! リオン様の! 仲を! 取り持ちなさい!」
「はい、はいっ! わかりました!」
そういえば最近歌を習い始めたと言っていた。素晴らしい肺活量である。
シャーロットは耳を両手で押さえながら、頷いた。
◇◇◇
「で、これ何してるの?」
中庭の茂みの中、ハロルドが訊ねた。
「隠れてる」
「僕たちだけ?」
今茂みにいるのはハロルドとシャーロットの二人のみである。アンジェラは中庭に設置されているベンチでそわそわしており、じきにそこにリオンも来る予定だ。
「二人っきりにさせろってうるさいんだもの」
「それなら僕たちはもっと遠くに隠れたほうがいいんじゃない?」
「緊張するから近くにいてほしいんだって」
「えっ、緊張するんだ、あの子……」
なかなかに失礼なことを言う。
だがシャーロットも同じことを思ったので何も言えない。
そわそわ、そわそわ。アンジェラは確かに緊張しているようだ。その姿は容姿と相まって大変可愛らしい。
「まあ、おかげでシャーロットと密着できていいけど」
「何か言った?」
「なんでもない」
と、そこに授業を終えたリオンがやって来た。シャーロットが事前にここに来るように城の人間に伝えるようにお願いしたのである。
リオンとアンジェラが何か話をしているが、アンジェラの表情がどんどん曇っていく。
と、リオンがこちらを振り返った。そのままズンズンこちらに来る。
「おい、何してるんだ!」
「わあ!」
茂みをかきわけられ、シャーロットとハロルドが姿を現す。目の前には目を吊り上げたリオンがいた。
どう見ても盗み見していた姿である。どうやって言い訳しようかとあたふたする。
「え、えっと……」
「どうしてハロルドとべったり引っ付いてる!」
「え……そこ……?」
てっきり隠れていたことや、アンジェラとくっつけようとしたことを怒られると思っていた。
「おい、さっさと離れろ!」
茂みに隠れるために密着していた体を離され、ハロルドと距離を取らされた。
「残念だな」
「ハロルド! 俺には聞こえているからな!」
「シャーロットには意味が通じてないからいいんだよ」
「よくない!」
二人が何やらキャッキャと楽しそうだが、何ではしゃいでいるのかわからない。
ハロルドに怒鳴っていたリオンは、シャーロットを振り返ると、彼女の頭に手を伸ばした。
「まったく、こんなに草だらけになって!」
シャーロットの頭に付いた葉っぱをリオンが取ってくれる。言い方は乱暴だが、その手つきは丁寧だ。
「僕もなんだけど……あ、何でもないです」
ギロリとリオンに睨まれて、ハロルドは自分でパパッと体に付いた葉を払った。
「リオン様! わたくしの話はまだ終わっておりませんわ!」
無視される形になったアンジェラが負けじと声を出す。すごい、自分ならこの状況で絶対声かけられない、とシャーロットは感心した。自分だったら気配を殺して帰る。
リオンが面倒そうにアンジェラに向き直った。
「話なんかないだろ」
「ありますわ! わたくしとお付き合いしてくださいませ!」
直球!
目の前で告白をしたアンジェラにシャーロットはオロオロしてしまう。そういうのは部外者がいないところでやってほしい。
「断る!」
きっぱり言い放ったリオンに、アンジェラの目に涙が浮かんだ。
「どうしてですの!?」
「どうしたもこうしたも、俺はお前が好きじゃない」
「付き合ってから好きになってくれたらよろしいわ!」
「好きになることがあり得ないって言ってるんだ」
「そんなの、人の気持ちはわかりませんわ!」
「わかるから言ってるんだよ! 自分の気持ちだからな!」
アンジェラが唇を噛んだ。
「……わたくし、わたくし……」
ブルブル体を震わせる。
「うわあああああん! また出直しますわー!」
涙を大量に流しながら、アンジェラは去って行った。
「……まるで嵐みたいな子だね」
「同感」
アンジェラに対するハロルドの感想に同意する。
シャーロットはちらり、と隣にいるリオンを見る。
「リオン、よかったの?」
「何が?」
「いや、だってあんな可愛い子……たぶん年頃になったら絶世の美女になるわよ?」
正直自分が男だったら即受け入れると思う。それぐらいアンジェラは美少女だ。可能なら立場を代わってほしい。
「もったいない」
「あのなあ」
リオンが乱暴に髪をかき上げた。
「俺はもう他に好きな人がいるんだ。だから誰とも付き合わない」
「えっ!」
シャーロットは驚いた。リオンとの付き合いももう一年だ。その間、遊び相手として仲良くしてきたが、リオンが特別親しくしている女の子に出会ったことはない。
「誰!? いつの間に!?」
「誰でもいいだろう」
「だって、私が気付かないだなんて……あっ」
シャーロットはハッとする。
「まさか……ハロルド?」
「そんなわけあるか! 冗談でもやめろ!」
リオンがシャーロット以外で仲良くしているのはハロルドしか思いつかず、もしやと思って言ってみたが全否定された。
ギロリ、とリオンに睨まれる。
「前もそんなこと言っていたな……今度そんなこと言ったらお前の課題増やすように教育係に言う」
「ちょっとやめてよ!」
恐ろしいことを言い始めた。王宮での勉強はさすが王宮と思うほど充実し、難しかった。以前婚約破棄される前にもそれなりに勉強していたが、ここではさらにしっかり学ばせてもらえていると実感している。
しかし課題は嫌だ。
もう下手なことは言わないようにしようとシャーロットは口を噤んだ。
「あと、ああやって誰かとくっつけようとするのもやめろ」
「ごめん、勢いがすごすぎて思わず……」
「わからなくもない」
そこはわかってくれて安心した。
「リオン様との仲を取り持ちなさい!」
「え、つよっ……」
翌日。昨日のことがなかったかのような様子でシャーロットの前に現れたアンジェラに、思わず本音が漏れた。




