14:教えることがいっぱい
「この間のこと、きちんと謝ってください」
「この間のこと……?」
「この間の爆発です!」
あの爆発のおかげで温室は大きな被害を受けた。ちなみに修繕費は王家からもらう予定だ。父は断ろうとしていたが王妃がぜひと言って聞かなかった。
おかげで気に入らないことをされても断ることができない。なので、自分のやりやすいようにしていくのみである。
「私たちは一緒に遊ぶ仲! つまり友達です! よって偉そうな態度はなし!」
言いながらリオンの眉間を突く。
「その第一歩として謝ってください!」
ツンツンツンツン。
遠慮なく突くシャーロットの手をリオンが押しのける。
「何で俺が! 一度謝っただろ!」
「あんな謝罪で納得できますか!」
今まで謝罪など述べたことはないのかもしれない。抵抗を示すリオンに、シャーロットはピシャリと告げた。
「謝られなかったら王妃様にチクります」
リオンは、悔しそうに唇を噛みながら、ゆっくり唇を開いた。
「悪かった……!」
不満そうにしながらもそう言ったリオンに、シャーロットはため息を吐いた。謝罪ひとつでこれでは先が思いやられる。
――まあ、初日だから、言えただけよしとするか。
シャーロットはリオンの頭を撫でてあげるとリオンが顔を赤らめた。
「な、何するんだ!」
「きちんとできたら褒めてあげないと」
「言葉で言え!」
払いのけられ、シャーロットは触り心地のいい頭から手をのける。
――偉そうな態度はそうそう直りそうにないわね。
「で、何して遊びます?」
「え?」
シャーロットの言葉に、リオンはきょとんとする。
「遊んであげるから、何がいいか言ってください」
ちょっと我ながら偉そうな言い方になってしまったなと思ったが、リオンは途端に顔を輝かせた。
その表情が子供らしく、なんとも可愛らしい。
まだまだ子供だな、とシャーロットは自分も子供なことを棚に上げて思う。
「じゃあ……歴代王の名前当てはどうだ?」
キラキラした笑顔でリオンが言った。
「……正気ですか?」
「何だよ?」
リオンの提案にシャーロットは深いため息を吐いた。
「殿下、それは遊びではありません」
少なくともシャーロットの中では違う。それは勉強だ。
「じゃあ、神話の成り立ちについて討論するのでもいいぞ」
「わかりました、私が考えます」
シャーロットはそんな討論したくないので、何か二人でできることはないか考えた。何が何でも歴代王の名前当てや神話討論は回避したい。
「かくれんぼにしましょう」
「かくれんぼ?」
「ええ。これなら二人でもできますから」
「子供っぽいが、まあいいだろう」
リオンは納得してくれた様子だ。
「じゃあ、お前が鬼だな」
「はい? なぜ?」
なぜ自分が鬼なのかが本気でわからなくて、シャーロットは首を傾げた。しかし、リオンも不思議そうな顔をしている。
「今までみんなそうだったぞ?」
「……殿下が鬼をしたことは?」
「ないな」
シャーロットは額に手を当てた。ああ、遊び方からしてこうなのか。
シャーロットは本日何度目かわからないため息を吐く。
「殿下、かくれんぼは、始めるときにじゃんけんで誰が鬼をするか決めるんですよ」
「じゃんけん?」
リオンは不思議そうに首を傾げる。
――そうか、じゃんけんを知らないのか……!
今まで譲られてばかりだったのだ。じゃんけんなどする機会はなかったのだ。
遊ぶ前にいろいろ教えることが多そうだが、仕方ない。
「……じゃんけんの仕組みから教えますが、その前に」
「うん?」
「『お前が鬼だ』と勝手に決めるのはいただけません」
シャーロットは指を一本立ててリオンの目の前にかざした。
「いいですか、あなたはなんでも勝手に決められる存在ではないんです。相手の意見を聞くことも必要です」
「王太子なのに?」
「王太子でもです」
シャーロットは続けた。
「はっきり言いますが、偉そうな態度ばかりだと、みんな離れていきますよ」
「何でだ?」
「そういう態度の人間は、嫌われるからです」
リオンが目を見開いた。
今日のリオンは戸惑ってばかりだ。
「でも……偉そうにしろって言われてきたぞ」
「それは間違いです。王妃様にも言われたのでは?」
リオンが口を閉ざした。思い当たるふしがあるのだろう。きっと王妃様の様子だと、パーティーのあとに、リオンと話をしているはずだ。
「じゃあ……じゃあ、どうしたらいいんだ?」
傲慢な態度から一変、リオンは不安そうに大きな瞳を揺らした。
――こうしてると年相応に可愛いわね。
元々容姿は整っているのだ。素直だととても可愛い。
「これからもおかしいと思うところは私が言いますから、一緒に直しましょう」
「…………」
リオンは何とも言えない表情になりながら、僅かにシャーロットから顔を背けた。
ズバズバ言い過ぎて嫌われたか、と思ったとき、リオンが口を開いた。
「……リオン」
「はい?」
「呼ぶとき、リオンでいいぞ。敬語もいらない」
今度はシャーロットが目を瞬く番だ。
どうも、嫌われるどころか、懐かれたらしい。
リオンの心境はわからないが、いいというのならいいのだろう。
「……えっと、じゃあ……リオン?」
「うん」
リオンは満足そうに笑って頷いた。
「じゃあ、まずじゃんけんから教えてくれ」