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第48話 それぞれの弱点

 神器が白銀に輝き始めると同時に、トウマらは全身から魔力が奪われていくのを感じた。立っていられなくなり、その場に膝を突く。


「君たちはそうやって僕にかしずいているのが似合っているよ」


 嘲るように言い、勇者は神器を閃かせた。


 次の瞬間、剣から伸びた閃光がトウマらに襲い掛かった。光が身体に触れる直前、トウマは光の中へと突っ込んだ。


 手には血潮で作られた剣。


 神器が完全に振り下ろされる直前に滑り込み、神器の根元に向かって剣を叩きつけた。


 甲高い音が響き、神器とトウマの剣が鍔迫り合う。が、血で出来た剣は、魔力で出来ているようなものだ。神器に吸われ、剣身が徐々に削れていった。


 剣が完全に無くなる前に、トウマはそれを手放した。さらに足を踏み込むと横へ回避し、新たな血潮の剣を手に生成した。


 同時に、一閃。


 勇者に休む間も与えないように繰り出した剣撃は、しかし、受け止められてしまった。


 数合に渡る打ち合いが続いた。血潮の剣と神器がぶつかり合うごとに、鋭い火花があたりに散る。その眩さに、目がチカチカする。


 目を瞬かせるとともに、トウマは音を聞いた。勇者の背後から何者かが迫ってくる――!


 音に気づいた瞬間、勇者がトウマの剣を弾いてその場で跳躍した。


 勇者の向こうから、大きな足音を響かせて迫って来たのは堅鎧士(ガーディアン)だった。身体を隠すほどに巨大な盾を構えながら、突進してくる!


「させないにゃ……!」


 トウマの横からマイナが跳びだした。盾に向かって鋭い蹴打を喰らわせる。


 堅鎧士(ガーディアン)の身体は、人間にしては巨躯だ。しかし、獣人族であるマイナの蹴りは、その巨躯をも弾き飛ばしてしまう。


「チッ! 小賢しいマネしやがって!!」


 堅鎧士(ガーディアン)が苛立たし気に叫びながら、体勢を立て直した。


 立ち上がったところへ、リュウトが近づいていた。気配を消して近づいた彼に、堅鎧士(ガーディアン)の男は直前まで気が付かなかった。


 低い姿勢からリュウトは剣を逆袈裟に振り払おうとした。だが、堅鎧士(ガーディアン)の背後から、矢が飛んでくる。


 リュウトはそれを刀で弾くと、一度身を引いた。大男の後ろには、弓を構える男の姿があった。


 互いに譲らない攻防が続こうとしていた。だが、時間はあまり残されていない。夜明けまでに、片を付けなければ――。


「魔王、ここは俺らに任しとき! あんたは勇者に集中せい!」


「っ……!」


 リュウトはトウマが悩んでいることを一瞬にして見抜いた。トウマの前に立ち、刀を構えて二人の男へと対峙した。彼の隣に、ルミアも短刀を逆手に構えながら立つ。


「……ああ、ここは任せたぞ!」


 そう話し、トウマは身体ごと横へと振り向く。


 トウマの前には、勇者の姿。先ほど跳躍した彼は、トウマと仲間たちのやり取りを見て、鼻で笑った。


「はっ。弱者同士で馴れあっても、僕らには勝てないぞ」


「……いいや、貴様らがどれだけ優秀でも、仲間同士で助け合えば、必ず勝てるはずだ」


「なら、やってみるがいい。――おい、そっちの二人を殺せ。殺せなかったら、俺が殺してやるからな」


 勇者が離れた位置にいる堅鎧士(ガーディアン)と弓使いへ言った。二人は勇者の物言いに苛立ったような表情を浮かべながらも、頷いて答えた。


「――さて、僕らは僕らで殺し合おうか。まあ、一方的な虐殺になりかねないけどね……ッ!」


 地面を蹴り上げ、勇者が一瞬で肉薄してくる。神器を薙ぎ払われ、トウマは受けるのが精いっぱいだった。


 神器が払われると共に、トウマの身体も弾かれた。建物に突っ込み、レンガの壁を砕きながら転がっていく。


 建物を一軒分貫通したところでトウマは弾かれた勢いを殺した。地面に足を下ろすと、砂埃を上げながらなんとか止まる。


 顔を上げた時、勇者は既に目の前にいた。振り下ろされた剣を、ギリギリで受け止めた。


「どれだけ抵抗しても無駄さ。君がここで死ぬ運命は、変わらない……!」


「……それは、神器が強いから、とでもいうつもりか?」


「ああ、そうさ! この剣は、魔族の魔力を吸い、力に換える最強の剣だ。君に、勝てるはずが――」


「なら、何故貴様は、その力を今使わない?」


「は……?」


「どれだけ完璧に思える代物でも、欠点のひとつはあるはずだ。神器にも、何か一つくらいあるものだ。例えば……一度放った力を、再充填するには時間がかかるとか、な……」


「……君は、どこまで知っているんだ? 神器のことを、誰から聞いた?」


 勇者が目を細めた。


 反逆者を疑っているのだろう。が、トウマに神器のことを教えたのは、人間ではない。


 エルスカだ。


 彼女は何故か、人間界の知識に精通している。初代魔王だから様々なことを知っていてもおかしくはないが……それ以外の理由もあるような気がした。


 彼女が答えようとしなかったため、トウマには理由を確かめるすべはなかったが――。


「……貴様に教える義理はないだろう? まあ、ルミアちゃんの居場所を吐けば、言ってやらんでもないが」


「誰が言うものか。君に渡す情報は一つもない。逆に、僕が君から情報を引き出してやるッ!」


 剣を弾かれ、トウマは地面を蹴った。後ろへ後退し、続けざまに返す刀で薙ぎ払われた一閃を横へ跳んで回避する。


「逃げるだけか? 神器の弱点を見つけたところで、君にも決定打となるものがないんじゃないのか?」


 口元に嘲りを含みながら、勇者はさらに足を踏み込んだ。トウマが身体を後ろへ逸らすと、僅か数センチ先に銀閃が瞬いた。


 剣が街の明かりを反射し、トウマの目を直撃した。反射的に目を閉じつつも、トウマは地面を強く蹴り、上空へと跳躍した。


「【疾風雷光(サンダーボルト)!!】」


 僅か数瞬遅れて、勇者が雷撃の魔法を放つ。魔法は近くの建物へと直撃し、その壁を破砕した。


 トウマが跳躍を終えて地面へ降り立つ。着地後の僅かな硬直の隙を突いて、再び雷撃の魔法が放たれた。


 身体を横へ転がして回避。重厚な鎧を身に纏いながらも、悉く攻撃を避けて見せるトウマに対し、勇者は舌打ちを溢した。


「チッ……魔王の癖に、よく動く。そこまで殺されるのが嫌か?」


「ああ。俺はルミアちゃんを助けるまでは死ねないんだ。それに、負けるのは貴様の方だ!」


 地面に片膝を突いて座り込んだまま、トウマは手を掲げた。手を開いたまま、魔力を集めると。


固有魔術(ユニークスキル):【暗殺兵士(アサシンズ・ポーン)】……発動(アウェイク)!」


 トウマが固有魔術(ユニークスキル)を発動。

 勇者を球状に囲うようにして、無数の剣が出現した。


「いつの間に……!?」


 トウマは戦いながらも、【兵士(ポーン)】と【暗殺者(アサシン)】の固有魔術(ユニークスキル)で、剣を潜ませていたのだ。


 勇者は、トウマが作り出した状況に誘い込まれたことに今さら気づく。憎々し気に表情を歪める勇者に対し、トウマは笑った。


「――他者を嘲り、油断するからこうなるのだ」


 トウマが手を握りしめる。

 瞬間、無数の剣が勇者へと襲い掛かった!


 全方位から迫りくる刃。それらを避けることは出来ない。できるはずがない。


 だが――。


「これで勝ったつもりか? 甘いな……!」


 勇者は冷静に、自分に迫り来た剣を睨みつけた。そして、神器を振るって叩き落とす。


 続けざまに剣を薙ぎ払い、二本、三本と剣を叩き落としていく。死角から迫る剣すらも、後ろに目が付いているのかと思わせる反射速度で反応した。


 剣を叩きつける甲高い音と、火花の閃光が絶え間なく響く。窮地に陥っているはずの勇者は、どこか余裕そうな剣舞ですべての剣を叩き落とした。


 最後に頭上から降って来た槍を掴み、トウマに受けて投げつけた。兜が僅かに削られる。その奥で、トウマの目に焦りが浮かんでいた。


 ――勇者が、ここまで規格外だったとは……!


 目を見開くトウマの視線の先で、勇者は剣をひらひらとさせながら笑う。


「君は、愚かだ。今の攻撃は、自分から弱みを見せたようなものじゃないか」


 この一瞬で、今の攻撃の弱点に気づいた勇者は、滔々と語る。


「おそらく、その気配を隠す固有魔術(ユニークスキル)は、攻撃する際には姿を現さなければならないのだろう? だが、攻撃が見えるなら、対処くらいできるものだ」


 勇者の言っていることは事実だ。【暗殺者(アサシン)】の固有魔術(ユニークスキル)は、姿を現さなければ攻撃ができない。


「君の努力は全て無駄だ。大人しく、僕に殺されていろよ」


 神器を突き付けて、歪んだ笑みを向けてくる勇者。


 だが、トウマは諦めない。

 胸に宿る戦意の炎は、まだ燃え続けている。


 それに――。


「まだだ。俺には、仲間がいるからな」


「仲間……?」


 トウマの言葉に勇者が眉根を寄せる。


 次の瞬間、勇者の背後から、建物の壁が破砕された。


 ドンッ! と地面を揺るがすほどの轟音と共に砂塵が舞い上がり、何者かが飛んできた。


「な……っ!?」


 驚愕に目を見開きながら、勇者が振り返った。


 視線の先に転がっていたのは、弓使いと堅鎧士(ガーディアン)の男たち。


 さらに、瓦礫と化した建物からマイナとリュウトが、傷だらけになりながらも現れるのだった。


ご一読ありがとうございます!

たくさんの方に読んでいただけて、日々の励みになっております!

ブクマや忌憚ない感想などもお待ちしております!

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