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紙切れ?メモ?いえ、ファンレターです。

作者:

『オススメの本です』


そう言っていつも通り彼女は本を差し出してきた。

僕と彼女は本の趣味が似ている。

好きな作品はだいたいお互いが読んでいるけど、読んでいない本だってある。

そんな時はよく貸し借りしている。



彼女が持ってきた本はとても見覚えのある本だった。

10年前に出版されて全然売れず、すぐに本屋からも消えたのに何故今頃になって彼女の手にあるのか不思議で仕方ない。



いつまでも受け取らない僕に疑問を覚えた彼女はどうしたのかと怪訝そうにしハッとした顔になった。

読んだ本だったのかと言われ申し訳なさそうにされた。

思わず僕は読んでいないと言ってしまった。

内容は知っているが、本の状態では読んでいないのでまったくの嘘では無いと思いたい。

僕の様子がいつもと違うので心配されたが、本を受け取ったらほっとした顔をされた。


『とても素敵な物語だったし、共感もこんなに出来るのってくらい出来て読んでいて凄く面白かったの。それに私が凄く好きな展開ばかりだったし、主人公達も凄く好きになっちゃった。貴方も絶対好きになると思う!』


彼女がいつも大好きな本を語る時の笑顔でそう言われた。

とてもこの本を気に入ったのだろう。


彼女と別れ家に戻り本棚を眺めると、今日彼女に渡された本と同じ物が大量に並んでいる。

実家にも箱単位であるのを思い浮かべながら彼女から渡された本を見る。

いつもの様に本の間にはたくさんの付箋が挟まれている。

この付箋の文化はいつはじまったのか忘れてしまったが、僕と彼女は本の中で好きなところ、共感したところ、誰かに伝えたい事を書いて挟んでいくのだ。

まるでその場で一緒に読んでいる様な感覚になっていくのが楽しい。

彼女とだからこそ出来るちょっとした遊びだ。

この本に彼女の楽しんだ跡が詰まっている。


僕は一度だけ本を世に出した事がある。

まあ、全然売れ無かったけど。

小説家で食べていく事が出来ないとハッキリ分かり諦めがついた。


ただ、僕の書いた話がどう巡り巡って彼女の元に辿り着いたのか。

彼女がこの本を読んでどう感じたのかはとても気になる。

拙いし、僕の好きな展開を詰め込んでいるだけの作品だった。

ただ、僕は自分が書いた物語はとても大事な宝物だと思っている。

その宝物を彼女はきっと好きになってくれたのだと思うととても嬉しいし恥ずかしい。

このたくさんのメモは僕にとってのはじめてのファンレターになるのだと思うと、本を開くのに時間がかかる。


そして、僕は彼女にこのファンレターを読んだ感想をどう伝えればいいのだろうか。

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