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リリー35 (十七歳)

 


  皆さま知ってる? 今日が何の日か。


  なんと私の十七歳のバースディ!!



  おめでとー! おめでとー!


  ありがとー! ありがとー!



  パピーとマミーの素敵な笑顔、それが最高のプレゼント。


  とは言ったものの、しっかりと物欲にまみれた私は、マミーがオーダーしてくれた、素敵な蒼いドレスを着用中。


  ふんわりスカートはグラデーションに裾が黒くなり、銀色のスパンコールみたいな石が散りばめられていて、動かなくてもキラキラと輝くの。


  歩く宝石箱やでっ!


  パピーとお兄さま達と一族の皆さま達からも、それぞれに素敵な物欲をゲットする。


  マミーとお揃いのネックレス、蝶の髪飾り、碧い石の耳飾り、腕輪、腰飾り、足飾り、いろいろ、いろいろ。


  一番すんってなったのは、ケーキではなく、お部屋に届けましたと言われた、ルールさんからの歴史書物の大量プレゼントだった。


  いや、ありがたいんだけど、ありがたいんだけど、奴隷に関する資料、欲しいって言ったけど……今日……?


  さて、そのお部屋ではなく、パーティー会場の真ん中にドカリと設置されたバースディケーキ。私が頼んだスペシャルケーキは三段ではなく、なんと五段重ねの立派な塔に進化していた。


  この心遣い、最高だぜ。


  うちの自慢のパティシエは、いつも良い仕事してくれる。


  ケーキ専用の丸テーブル。嬉しすぎて周辺をぐるぐる回る私。


  一番下の大きなケーキの側面に、チョコペンで草草ってわらわらダブリュー書き込みたい。見上げたケーキのてっぺんに、一と七の数字のロウソクをグサッと二本突き刺したい。

 

  それは叶わず。


  そんな事を皆の見てる前で仕出かしたならば、下の兄貴どころか、マミーに何をされるか分かったもんじゃない。


  ケーキもこの会場も十七歳おめでとーも、全て無かった事にされるかも…。


  マミーはこの場において、パピーよりも、超強権力を持っているのです。花瓶の位置だって、一ミリもずらせないのです。


  でもケーキ、こんなに大きく成長したのならば、独り占めしないで、皆とわけ合ってもペラペラにはならなさそうだよね。


  ムフフッ! 楽しみー!


  さて、一族の皆様にもご挨拶。


  王都に出張してくれているいつもの仲間たち。そしてその仲間たちのご家族の皆様。


  こほん。


  わたくし、十七歳になりました。


  生きてるって素晴らしいですね。


  過去世ではなれなかった十七歳。初めての一歩は、大切に着実に踏み外さずに進もうと思います。


  「…………」


  ふと頭に過った右側(うち)の馬車襲撃事件。だけど今は、それこそそんな心配は、全くもって必要ないのであります!


  みてみて、ここに集った一族の皆様の頼もしそうで凶悪そうな顔つきを。


  お化けだって泥棒だって、強盗だって虐待犯だって入場出来ずに逃げ出すよ。


  普段はあんまり笑わないのに、笑顔の悪の中枢たち。


  負けずに悪役(わたし)も微笑み返す。


  ニコッ!!


  今日は特別だものね!!


  だって私の、十七歳への進化記念日!!


  彼らを頼もしく眺めた後、会場がザワッてざわめいた。はぁ? って顔の皆の見つめる会場入り口。なんと彼がやって来た。


  (グーさん……)


  ここで私は、現在の立ち位置を振り返る。


  この人との中途半端は婚約話は、家族の誰もがはっきりと、無かった事になりましたって、宣言してはいない。


  主人公のフェアリーンさんは、国外に言っちゃったかもって、グレイお兄さまは言っていた。


  ならば今のグーさんて、私の命を脅かす、不安材料ではないのかな?


  王太子風を吹かせ始めてから、割りと国のイベントにしゃしゃり出て目だっているグーさん。


  そして招待状もなく、堂々と我が家のパーティー会場の真ん中を突き進むグーさん。


  ーー危険な感じだ。


  フェアリーンさんが言っていた、王太子奪って悪役王道エンディングしちゃいなよ、みたいな台詞が、今も悪意として引っ掛かる。


  目の前にたどり着いた悪意。だが彼は、一般の皆さまの目には、攻略対象として善意の象徴と映っているのだろう。


  「王太子殿下に、黒の安息を」


  「……」


  ほらやっぱり。ブスッとしたでしょ?


  グーさん、学院で私からの挨拶は受け取りませんて、へそ曲げたままなんだよね。


  なんか……、気を遣うの通り越して、面倒くさくなってきたな。


  面倒くさい王太子の登場に、皆もどうすんのさってヒソヒソしてる。だけど引っ込み思案のクセに、意外と神経の図太いグーさんは、踊りましょうって、空気読まずに私を広間に引っ張り出した。




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