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  王都で起こった殺傷事件。通常は警務隊が取り扱うが、襲われた者達が黒い馬車に乗ると通報が入り、王警務隊が出動した。


  到着した王警務隊は、商店街の大通りに散らばる数十の遺体に、ここは戦場ではないのかと錯覚した。


  覆面を外して絶命する数人の顔を確認する。犯人は怪しげに顔を隠して倒れる者達だと見て分かるが、その後の捜査の鉄則に、アエルは怒りをセセンテァに向けた。


  「一人くらい、生かして残すべきだった」


  「敵意を持つものに無意味な時間は必要無い。残された身体(それ)だけで、必要な情報は得られるはずだ」


  王警務隊に死体の管理権は奪われる。だが手を抜くなと釘を刺した右側(ダナー)の騎士に、アエルはチッと舌打ちした。


  「一つだけ直ぐに分かるのは、こいつらは国内の者では無いと言うことだ」


  「それは骨格を見て分かる。……国内で異国傭兵(それら)を扱う者は、ナイトグランドギルドが有名だな」


  「いや、そうとは言えない。見ろ」


  石畳にうつ伏せに倒れて血を流す男の身体を表に返す。


  「骨格ではなく体格だ。ナイトグランドは主に西方と南方の傭兵を囲っている。だがこれは、そのどちらの癖も出ていない」


  剣を握る両手の平の皮の厚み、武器を扱う筋肉のつき方、それにアエルは西と南を除外した。


  「大剣を使う北の癖が強く出ている。これを雇った者は別に居るだろうが」


  「北」


  「我が国の友好国で、北の国民は団結力が強い。……まあ、破落戸はどの国にも居るからな」


  「……セントーラ国か」


  銀色の瞳が見下ろした先、絶命に天を仰ぐ男の全身を見て、セセンテァはあることに目を眇めた。


 

 **



  「こんな街中で、初めてよ、あんな、」

  「怖いわ、最近、裏通りでも物騒な事があったわよね。壁にいっぱい矢が突き刺さってて…」


  商店街の一角から、血にまみれた大通りを恐々と眺める民衆の中に、鈍色の髪の男が立っていた。


  今は灰色の外套を纏わない。青白い顔に暗い色の瞳は、全く意味の無かった襲撃に深く息を吐いた。


  (正攻法で襲ってはみたものの、全く役に立たないとは。これでは、エルストラ王女の方がまだましだったな)


  境会は少女一人の排除を簡単に考えているが、右側(ダナー)という壁は簡単には崩せない。


  「……厄介だな」


  思い出すのは強く輝く蒼い瞳。それを消せなかった苛立ちに、エンヴィーは黒い馬車の過ぎ去った方角を見上げ、その残影を目で追った。



 **



  帰宅し馬車から降りてきたリリーは、誰が見ても分かる平気な振りをしていた。そして侍女からの報告では、その日の就寝は、明かりの消灯を嫌がったという。


  「この襲撃は、リリエルに関わる呪いとは同一視しない。敵は、右側(われら)を攻撃した」


  沈黙に同意する一同の前に、ある国の資料が配布される。急遽開かれた会議で、セセンテァの報告書を見たグレインフェルドはトライオンの顔を見た。


  「セントーラ国の破落戸は、全て騎士だったと言ったな」


  「はい。我らもその手応えを感じました」


  「珍しくあるな。スクラローサの友好国セントーラ。あの国は、王家への妄信的な忠誠心で有名だが」


  「過去に遡っても、右側(われら)とは遺恨も接点もありません」


  「調査の結果、ナイトグランドギルドには、北からの傭兵は居ませんでした」


  セセンテァは発言後、気丈な振りをして笑うリリーの顔を思い出し、グッと拳を握り締めた。


  それを横目で見たローデルートも、珍しく怒りを顕に声を強める。

 

  「デオローダとパイオドの山大鹿(ヘンム)の減少、セントーラ国の破落戸を装う騎士。懸念は深まりました。全て明らかにしなければなりません。……今回の襲撃と同一視はしませんが、もう直ぐ、春がやって来ます。不安は取り除かねばなりません」


  ローデルートの言葉に頷いたナーラは、セセンテァと目を合わす。


  「我らデオローダ領、そしてパイオド領、総力を挙げて調査します」


  そこに足音高く、遅れてやって来たのはメルヴィウス。グレインフェルドの隣にドカリと行儀悪く腰かけると、碧い目を猫の様に細めて兄を見て笑った。


  「王都四ケ所、あの不気味な石碑を見つけ出して、全部破壊してきたぞ」

 


  来たる春。


  リリーは十七歳になる。



 

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