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  鐘の音にリリーを教室に迎えに行ったセセンテァだったが、その姿がどこにも無い。急ぎ廊下に飛び出ると、旧教の教師と共に歩く姿を見つけホッと胸を撫で下ろした。


  「リリー様」


  セセンテァの呼び掛けに、ぼんやりとした蒼い瞳は力無く頷いた。笑顔も口数も少ない、見たことの無いリリーの姿に、何事かと隣のセオルに目線を移す。


  するとセオルも、今までに無い剣呑な雰囲気で佇み、そしてセセンテァに軽く会釈した。


  (……何だ? この短時間に、何か起きた)


  「パイオド卿、何事ですか?」


  同じく迎えに来た者たちも、リリーの様子を訝しむ。右側(ダナー)の異様な雰囲気に、それを遠巻きに見守る生徒達だったが、ここでセセンテァは、ある事に気が付いた。


  (左側(やつら)と何か関係が?)


  さざめく教室内。他の教室の生徒も時告げと共に広い廊下を行き来する中、不自然に白の制服が少ない。


  それに何かの変化を見て、セセンテァは配下の者に目配せした。



 **



  口数少なく帰宅したリリー。足取り重くグレインフェルドの執務室に入り、力無く自室に戻る。そして初めて早めに休むと言って、夕食にも顔を出さなかった。


  「何があったんだ」

 

  学院には通わず、グレインフェルドやメルヴィウスの補佐をするもの達は、同じ様に困惑する生徒護衛に苦言を呈した。


  「まさか左側(アトワ)の奴らから、何かされたのでは?」

  「やっぱり学院関係者として、俺も入るべきだったのだ」


  「左側(アトワ)に隙を与えるほど、私達は寛容ではありません。例え学院内だとしても、姫様を攻撃するのであれば、いかなる手段を用いても事前に処分します」


  ルールとガレルヴェンの会話に、メイヴァーが立ち上がり割り込んだ。リリーの変化の内容が分からず、憶測に苛立ち、十枝間の空気は殺伐と重くなっていく。


  「今回は、左側(アトワ)は関係ありません」


  遅れてやって来たのは、配下からの報告を受けていたセセンテァ。その内容は、フィエルを中心とする左側(アトワ)の動向だった。


  「左側(アトワ)の意識は今、右側(こちら)ではなく境会(アンセーマ)に向かっています」


  「境会(アンセーマ)だと?」


  思いがけない内容に、会議場は大きくざわめく。アトワ家は境会を問題視せず、今まで二つの組織は、互いに関心がない様だった。


  「左側(やつら)は、境会(アンセーマ)が庇護する生徒、フェアリーン・クロスを探しています」


  「フェアリーン・クロス?」


  「()()()()()


  ケーブ・ロッドの養子のフェアリーエルではなく、ダナー領に捕らえてあるフェアリーエムでもない。新たなフェアリーの名の出現に、空気は更に困惑する。


  「何故それを、左側(アトワ)が追っているのだ?」


  トライオンの問いかけに、セセンテァは頷いて椅子に腰かける。


  「詳細はまだ不明です。ですが姫様がファル殿と戻られた後、その辺りから左側(アトワ)が動き出し、放課後、境会(アンセーマ)に乗り込んだそうです」


  「乗り込むとは、穏やかな話ではなさそうだな」


  「はい。()()フェアリーンと名乗る者も、フェアリーエルと同じく、境会(アンセーマ)が庇護しているようです」

 

  「そういえば、姫様と共に居たのはファル殿と言ったか?」


  「はい」


  「ならばそのファル殿が、詳しく知っているのでは?」


  その場を冷静に観察していた、フレビア家のナーラが口を開いた時、室内に合図が鳴り響いた。


  「グレインフェルド様、ご入室されます!」


  執事のアローの合図に、一斉に立ち上がる。居並ぶ十枝の横を通り抜け、主の席に着いたグレインフェルドの後には、セオルが立っていた。


  「境会(アンセーマ)に関する、ある情報をファル殿が持ち帰ってくれた」


  グレインフェルドの協力を得て、国内の南端に位置する、隠された旧教の神殿を訪れていたセオル・ファル。スクラローサ王国建国以前、呪術に秀でたエルローサ王国の情報を持つ旧教会。彼らが引き継いだ歴史の中に、呪いに関する手掛かりを求めた。


  「旧王国エルローサには無かった境会(アンセーマ)、それが設立されてから百年後、スクラローサ王国に、守護の結界が展開されました。ですがこの結界、国民には守護と広められているのですが、その内容は不明です」


  「これを聞いてダナーの歴代を調べると、およそ百年前、歴代大公女様の不幸の始まりと、結界の展開時期がピタリと重なっていた」


  一瞬の沈黙の後、直ぐにフランビア家のルールは口を開いた。


  「その守護とされる結界、試しに破壊してみてはいかがですか?」


  それにグレインフェルドは軽く頷く。


  「既にメルヴィウスの部隊を向かわせた。我らが領地にある結界の祠は、数日中に機能しなくなるだろう」


  境会は王の息の掛かる組織。事は慎重を期さねばならないのだが、グレインフェルドは迷わずに指揮をする。

 

  「これが確実に歴代大公女様に関する事かは分からない。だが、得た情報、全ての不審は排除していく」


  異論はない。沈黙に同意する者たちを見回すと、背後のセオルに告げた。


  「例の祭司の件は、そちらにお任せする」


  「心得ております」


  リリーが道を塞がれたと騒いだ祭司。その警戒を同じ教師であるセオルが引き受ける。


  「……」


  それからやや間を空けて、少し疲れた風貌のグレインフェルドは、再び十枝を見渡した。


  「もう一つ。リリエルに、グラエンスラー・ナイトグランドの接触があった」


  その名に議場は再び殺伐としたが、グレインフェルドは、報告に緊張したリリーが突然、グラエンスラーを変態仮面と称した事を思い出し、えも言われぬ虚脱感を覚えた。


 

 **



  翌日は、前日の憔悴の欠片もなく、朝から元気を取り戻したリリーの姿。それに侍女や侍従は安堵したが、護衛の者達の懸念は的中する。


  授業が終わると、周囲の様子を見ているだけだったこれまでとは違う、積極的に誰かを探し始めたリリー。問いかけると、直ぐに目的の人物を口にした。


  「フェアリーン・クロスさん、絶対に、どうしても、私は会わなければならないの」


  「理由を伺います」


  「…………お、お友達になりたいのよ」


  明らかに嘘をついた。だがフェアリーンを追う者はリリーだけではない。左側より先に見つけ出すために、十枝もリリーと共に学院の内外を探し回った。




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