表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/200

21

 


  ダナー家の公女の編入により、学院内の右側(ダナー)左側(アトワ)との派閥の対立は、この日を境に悪化した。


  今まではお互い触れないように過ごしてきた彼らだが、リリーの存在により右側と呼ばれるダナー・ステイ一族は臨戦態勢となり、特に左側(アトワ)に強い警戒を放っている。


  少し何かが触れあえば、殺傷沙汰に転じる緊張感。


  それを察した力の無い者たちは、常に距離を保ち恐怖に怯えている。


  その中で黒の氷姫と称されたリリーだけは、異様な落ち着きを払い、女王の様に君臨していた。


  「姫様、何かお探しですか?」


  通学が始まって暫くすると、リリーは常に何かを探し始めた。


  それは王族の女子生徒かと思えば、体格の大きい剣士の集団を目で追う。その二点に注目していた護衛のエレクトは、リリーの目的を確かめたかった。


  『番長……』


  「??」


  何度聞いても聞き取れない。靄のかかるリリーの独り言。だが直ぐに、リリーは「大丈夫よ」と答えをはぐらかした。



 **


 

  「聞こえなーい!」


  「?」


  教室の移動でエントランスに差し掛かると、螺旋階段の下で大きな声がした。


  「はっきり言いなさいよ」


  王族の制服(グローディア)に取り囲まれるのは、庶民を表す深緑色の制服(スクラディア)。長い黒髪に褐色の肌の生徒は、逃れられず背を丸めてその場に立ち竦んでいた。


  「……ぃてもらえ………か」


  「聞こえないって、言ってんだよ!!」


  王族の血筋が遠くても、王族と婚姻関係にある親族の子供でも、王族と関わりがあって認められれば紺色の制服(グローディア)を着用出来る。


  中には質の悪い者も居て、彼らはたびたび庶民の証である深緑色の制服(スクラディア)の者たちを、無作為に選んではからかうのだ。


  その場に初めて遭遇したリリーは、スッと蒼色の瞳を微笑みに歪めた。


  「このこを見て笑っているの?」


  螺旋階段から降ってきた声に、何者かと取り囲む生徒たちは仰ぎ見る。

 

  彼らは、黒色の制服(ステディア)の生徒、見た目に畏怖を与える者達の先頭に立つ少女に、あっと、出た声を気まずく飲み込んだ。


  「どの辺が面白いのかしら?」


  からかわれていた生徒と、それを笑っていた女子生徒の間に、微笑むリリーが進み出る。


  深緑色の制服(スクラディア)を上から下まで観察する。その様子を見た女子生徒は、リリーが自分と同じ様に、庶民に嫌悪を示したと思った。


  「ステイ公女様も思いませんか? なぜこの様なもの達が、我々と同じ学院に通う事が出来るのかと」

  「そうですよ。そもそも、貴族と同じ様に学べると思うことがおかしいのだ」


  無学無知、更に生まれた血筋を笑う。取り囲む者たちを見回したリリーは、皆と同じ様に笑い出すと貴族の生徒を指差した。


  「ふふ、フフフフフッ、あはははは! 面白いわね、貴方たちのお顔!」


  「!?」


  指を差された者は、何の事かと徐々に笑いが失せていく。漸く自分たちがリリーに笑われていると知って困惑し始めた。


  「鏡をご覧になったこと、ありますの? 貴方たちのお顔の方が、私は面白いわ。フフッ」


  「何を言うんですか!」


  「ふふ、集団で一人を取り囲み、人を虐めて笑う顔。…なんて醜くて面白いのかしら。…不細工ね」


  「!!」


  非の打ち所がない。美しいリリーに顔貌を貶されて、言い返せない者は怒りと恥ずかしさに顔を赤らめていく。それを見たリリーは、更にフフフッと吹き出した。


  「ああその顔、容姿を私に貶されて、今度は自分が被害者って顔なのかしら? でもね皆さま、よく考えてみて。複数で一人を取り囲み笑う。卑怯で哀れな加害者は、一体誰なのか」


  自分は王族の親戚だと言い返そうとしても、それが通用しない右側(ダナー)という大きな権力。更に背後に無言で控える黒制服(ステディア)の者たちに、誰一人反論出来る者は出ない。


  先頭で悪口を言っていた女子生徒に近づくと、リリーは顔を覗き込んで美しく笑った。


  「良かったわね、加害者になれて。うらやましいわ」


  蒼白になった女子生徒はその場から後退る。逃げる様に紺色の制服(グローディア)が離れて居なくなると、残された深緑色(スクラディア)の生徒を、リリーはくるりと振り返った。


  背の高い生徒だが、それを丸めて俯いている。

 

  「あなたにも原因があるのだわ。下を向いて笑われたのならば、もっと背筋を伸ばして、前を向いて歩いてみなさい」


  「!」


  ポンと背中を軽く叩かれた。それに金色の瞳は見開かれる。

 

  「そうすれば、私と朝の挨拶が出来るのよ。下を向いていては、気づかないでしょ?」


  覗き込んで来た大きな蒼い瞳。「しっかりね!」と、にっこり笑った美しい顔に赤面するが、今度は俯かず、黒制服(ステディア)に囲まれて歩き去ったリリーの背をじっと見つめていた。

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ