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リリー4 (~十歳)

 

  更にすくすく成長し、明日は十歳の誕生日。


  私の探求心は収まらず、大きな我が家でも、入ってはいけないあの場所に、こっそり忍び込んでみた。


  「……の者が、口を出す事は控えてもらわなければならないな」

  「そうですね。我々を使えないようでは、そもそも意見を言うこともおかしな話です」

  「まあ、そうですね。いざとなれば、首は落とせばいいではないですか?」


  分厚い扉の向こうで交わされる、物騒で穏やかではない大人たちの会話。


  間違いない。

  ここは悪の中枢だ。


  「リリー」


  「はっ!」


  振り返ると、兄がいた。


  (しかも大きめの方…)


  「……何してるの?」


  悪の城のマッピングを広げていたことは言えない。なのでここは、アレを使用してみよう。


  「蝶を見ませんでしたか?」


  「蝶、」


  ファンタジーにまみれた質問返しに、さすがの大きめお兄さまも困惑気味かと思いきや、私の幻想に目をすがめる。


  大きめお兄さまは十五歳、とは思えないほどにクールに大人びている。切れ長の瞳は、万人を容赦なく谷底に突き落としそうなほどに冷えきっていた。


  ぶるぶる、内心ふるえる私。

 

  「何色?」


  きた。見え透いた嘘に対する真実の追及。もちろん私は悪役なので、嘘に嘘を平気で重ねる。


  「銀色の、ふわふわーって、ひらひらしてるの」


  「銀色、」


  見つめ合う、断罪者と嘘つき。すると冷えた目の大きめお兄さまは、ふっと、ため息した。


  「それは蝶ではなくて、蛾だよ」


  「が、」


  こくりと頷かれて、この場からの退出を目で促された。見破られなかった嘘にほっと胸を撫で下ろし、私は事なきを得た。



 **



  今日は十歳のお誕生日。


  盛大なパーティーが催され、そこで私は様々な権力者たちに御披露目された。


  「おめでとう」と「ありがとうございます」をひたすらに繰り返す。権力にまみれた装いのおじさんたちは、正装すると一見近寄りがたいお父さまとおしゃべりし、ついでのように私に「おめでとう」と言って去る。


  そのおじさんの中に、何人か子連れの人たちがいた。同じ年、少し年上、少し下。フリータイムにその子たちとおやつを食べなさいとお庭のテーブル席に案内されると、もれなく兄たちがやってきた。


  小さめお兄さまはわかるけど、大きめお兄さまも、やっぱり色とりどりの、おしゃれなケーキが食べたかったのね。


  そんな目で見ながらクールな大きめお兄さまにご挨拶した私だが、彼らが来ると、子供のおやつタイムは一変した。まるで先ほどの、お父さまとおしゃべりしたいおじさんたちのように、男の子も女の子もお兄さまたちに吸い寄せられていく。


  なので私は、お兄さまたちには近寄れない、引っ込み思案の少年と二人でおやつを食べた。



 

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