リリー13 (十六歳)
ついに出会ってしまった主人公は、こっちをじーっと見ていた気がする。
やな予感。
さっきのあれで、私は主人公に敵視されるの?
意味がわかんない。
あんな少し離れた所からどーやって、関わってもいない私を悪役認定できるの?
猫目の見た目?
失礼じゃない?
気のせいかな? 勝手な思い込み? ちょっとした悪役被害妄想入ってる?
(まあでも、迎えに来てくれたグーさんは四番目だし…)
「なんですか?」
改めて観察してみたグーさんは、確かに王子様っぽさもあるけれど、やっぱり四番目感も否めない。
まあ、大丈夫だよね。
中途半端な四番目。
授業が始まる前に、あちこちに連れていってくれたグーさん。だけどこんな大きな学校、一回見ただけじゃ絶対に覚えられない自信がある。
だからグーさんの道案内は上の空で、グーさんに一番気になっていたことを聞いてみた。
「そういえば私は以前グランディア様に、グーさんと口に出した事があるかしら?」
「ありますよ」
「!!」
マジか…。やっぱりね…。どーりでね…。
無意識って、怖いよね。
「初めはまさか、それが自分だとは思いませんでしたが。貴女は私を見て、たびたびそう呼び掛けられていましたよ」
にっこり笑うグーさん。
私は自分の間抜けっぷりに驚いて、「ソウデスカ」と話を適当に終わらせて、その辺でちょうど学校案内も終了した。
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つつがなくなんとなく日数は過ぎ去っていく。
初めは新しい学校に慣れるだけで時が過ぎ、一週間も経つと、周囲を観察出来るようになってきた。
私はね、お貴族ルールの二年間入学なのだけど、他の子は、小学生くらいからずっと通い続けてる子もいるみたい。
いろいろと仲良しグループに分けられてるけど、やっぱりはっきりと、色分けチームで対抗戦してるかんじかな。
黒VS白。紺と緑は、あんまり他の色とはっきりバチバチしてないかもね。
まあでも、目に見えるバイオレンスな喧嘩は、今のところ校内で見たことはない。
白も黒も、嫌味やメンチ対決が多いかも。
私は何してるかって?
私は今、番長を探している。
とりあえず主人公には関わり合わない方向で、先に番長をどうにかしようと思ってる。
ゲームでも漫画でも、番長って放っておくと後から出てきて目立とうとするから、私の出番にしゃしゃり出てこないように、調整してもらおうと思ってる。
裏工作って、悪役っぽいでしょ?
話し合いでなんとかするか、メンチを使わなければならないかは、ここの番長によるよね。
それはそうと私のお友達グループは、やっぱり居たよねの警備員の子供たち。彼らが傍に来てくれたことにより、初日からぼっちにならずに皆でランチを食べているが、彼らがいることにより、私は他のいろいろメンバーズに、気軽に声をかけることもあんまり出来てない。
だから表だって悪役だって、意思表明もまだ出来ていない。
そういえば、皆さま、知ってる?
悪役の登場シーン。あれってかなり、ナイスタイミングを狙わないと駄目なのよ?
「おほほほっ」て、踏み出るのって、なかなか難しい。
脱悪役したいのに、なんで悪役計画してると思う?
だってパピーの強権力と、うちの警備員たちが番長に負けるはずないのよ。
私、彼らに絶対の信頼を寄せている。
番長に喧嘩売れるチャンスなんてなかなかない。しかも自分の強さとは関係なく、親の七光りと警備に護られた万全の環境。このチャンス、逃したくはない。
別にタイマンしたいわけじゃない。
ただこんにちはって、挨拶したい。私は強権力の持ち主だから、番長は怖くないのよって言ってやりたいだけ。
他力本願って、悪役ならではだよね。
だからこれを存分に利用してから、それからさりげなく悪役辞めようと思ってる。
もちろんここに、主人公が乗り込んで来たら直ぐに撤退するつもり。
そんな計画を考えて過ごしていた学園ライフだったけど、この日は別の悪役を発見した。
「…えなーい!」
え? なにあれ。
「はっきり言いなさいよ」
ちよっと、生意気じゃない?
「聞こえないって、言ってんだよ!!」
なんで私を差し置いて、あそこで悪役披露してるの?
だから周囲を見回しここに主人公が居ないのを確認してから、悪役の座をオホホホって奪ってやった。
ベストタイミングだったよね。
私の横入りに一般の悪役たちは引き下がり、ついでに絡まれてた子にもはっきりと弱点を言ってやった。
虐めって対処が難しいよね。虐められっこ庇ったら、庇ったこが標的に代わるって、永遠に終わらない、よく出来た虐めシステムが発動するの。
だけど私、虐められることなんてあり得ない。
だからこのネバーエンディング虐めシステムを、ぶった斬ることが出来るのよ。
スパッ!
これが悪役の強権力ってやつ。
私が気を付けなければならないのは、強権力をヒロインパワーで押してくる、主人公だけなの。
そんな感じで初めてオホホホってしたけれど、なんとそれが切っ掛けで、初めて深緑のお友達が出来た。




