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95 アーナスター

 


  異界にリリーを送ると言った。耳を疑った者たちは、言ったエンヴィーに注目する。


  「あり得ない。意味が分かりません」


  怒りを顕にしたセオルに、きょとんとエンヴィーを見つめる蒼い瞳。


  「なぜリリー様を……! そうか、それが、境会(アンセーマ)の目的だったのですね!?」


  考えがまとまらず、辻褄の合わない言い掛かりばかり思い浮かぶ。だが冷静に首を振ったエンヴィーは、今度は目を逸らさずにリリーに向き合った。


  「貴女が私だけに教えてくれた。異界へ送る、意味が分かりますね」


  「……」


  目の前で、リリーはエンヴィーに何かを耳打ちしていた。それに怒りが沸き上がり、アーナスターは数歩前に出る。


  エンヴィーに見つめられたままのリリーは、暫し何かを考えていたが、こくりと頷いた。


  「…………わかったわ」


  「!!」


  「姫様!!」


  絶望に、それを見た。


  「駄目です。必要がありません」


  引き留めたセオルを見上げてリリーは首を振る。


  「あるのよ。きっと、ここはそういう()()なの」


  「場面? 何を言っているのですか? いいですかリリー様、エンヴィー祭司の言っている事は冗談ではありません」


  「わかってる。私も冗談を言っていない。これはきっと、皆を助けるために必要な事なの」


  「リリー様!!」


  凛と胸を張って、祭壇に歩き始めたリリーの腕を、セオルの強い力が掴んだ。それを振り返ったリリーは、にっこりと笑った。


  「だって私は、悪役なんだもの」


  「!?」


  「何をしたって悪役なんだから、これ以上、悪くなる事なんて何もない」


  「……」


  「悪くなりようがないなら、前に進むしかないでしょう?」


  頷くと、掴んだセオルの手をポンポンと叩いた。そして束の間、緩んだ手を外すと前に歩き出す。


  「きっと大丈夫。何もかも、上手くいく」


  「行かせません」


  踏み出したリリーを、背後からセオルが強く抱き締めた。



  ーーガラァーーーーン……。



  蒼い瞳は、悲しげに空を見上げた。


  「この鐘の音は、私を呼んでいるんだわ」


  「気のせいです。私には、鐘の音なんて聞こえません」


  「ウオオッ!!」


  「!!」


  走り寄り、渾身の力でエンヴィーを長剣で一線した。だがその動きはとても遅く、難なく躱され体勢を崩すと、エレクトはその場に両腕をついた。


  「セオル、お前が敵ではないのなら、姫様を、ここから、連れて行け」


  肩で息をするナーラも、剣を構えて切先をエンヴィーに突き付ける。明らかに様子がおかしいダナーの騎士を前に、セオルは戸惑い二人を見たが、祭壇を見て目を見開いた。


  「エンヴィー祭司、貴方が言っていた。聖女が、異界と繋がっているから異界を引き寄せると」


  ひたとエンヴィーを見つめたセオル。それにエンヴィーは、無言で肯定した。


  「その、聖女を還したのに、まだ異界と繋がっている」


  エンヴィーの振り返った先、短い階段の上の壊れた祭壇。今も光る柱の中には、横たえたはずの二人の姿が無くなっている。


  「還したのに、まだ……繋がっている?」


  セオルの疑問に再び顔を向けたエンヴィーは、抱き締められたままのリリーを見つめた。


  ーーガラァーーーーン……。


  「セオ、放して。鐘が鳴っている」


  「……」


  ーーズゥーーン……。


  森に落ちた魔法紋の破片。地響きは聞こえるが、鐘の音など聞こえない。そしてリリーを見つめる黒の瞳がセオルに向けられると、手を放せと暗に告げた。


  「セオル」


  同じ様に非難の言葉がリリーから発せられたが、セオルはエンヴィーを凝視したまま、乾いた唇を開いた。



  「()()が理由なら、リリー様より聖女と繋がっている者がいる」


 

  「あっ!」


  セオルが抱き締めるリリーの腕を、強く引かれて離された。身動ぎしたリリーが驚き振り仰ぐと、背後には、青ざめた顔に口の端から血を流すアーナスターがいた。


  「ぴ、ピアンさん、」


  「許さない」


  至近距離で構えたボーガンは、ガクガクと震える手でセオルに向けられる。

 

  「私より、リリー様と、同じ、許さない」


  だがその手を横に押したのは、アーナスターが必死に掴んだリリーだった。


  「武器(これ)は、セオルに向けないで」


  「…………」


  リリーの責めるような蒼い瞳を、アーナスターは愕然と見つめた。そして無理をして動いた対価に、込み上げる苦痛と共に血を吐きよろめく。


  介抱に背を撫でるリリーを見ていたセオルは、青ざめた顔色でリリーにすがり付くアーナスターに視線を移す。


  「……不安しかありません」


  「……」


  「ですがリリー様、貴方の幸せだけを祈っています」


  「セオ?」


  何の事かと問いかけたリリーの腕に、アーナスターはしっかりとしがみつく。それを怪訝に見たセオルだが、踵を返すと祭壇に向かって歩き出した。



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