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「エルローサが国を治めていた遥か昔、自然神エルロギアへの信仰と、この土地に古くから生息していた幻獣との関係が、とても良かったそうです」
グレインフェルドを筆頭に、ダナーの十枝が集う大会議室。そこで一同を見回し静かに語るのは、今年七つになる少年。
「エルローサの民はエルロギア神の下、幻獣と共存し、その事で国民も幻獣の守護の魔力を受けやすい体質だった。つまり、それが奴隷とされる原因だと学びました」
少年は、一族の悲運な歴史を冷静に語る。それをこの場の全ての者たちは重い沈黙で受け止めた。
「幻獣から核を取り出し、奴隷は、境会で体内の魔力を核に移されるらしいのです」
その後は貴族の家で飼い殺し、様々な用途で使い捨てられる。
「つまり、あなた方の魔力は、核の力を増幅させるということか」
グレインフェルドの問いかけに、ファンはこくりと頷いた。
「代々継承されるエルローサの護りの飾り石は、現在の私たちの居る神殿の強い結界となっています。父上が毎日祈り、力を籠める。それと同じかもしれません」
「境界は、それを強制的に引き出して利用する」
苛立ちにナーラが呟いた所で、隣の席のルールが従者に合図した。
「境会の極秘資料を手に入れました。今からお配りしますので、皆様で共有して下さい」
手元の資料、その中の見慣れない言葉にメルヴィウスは注目した。
「エー、ビー、シー?」
「この記号は、聖女と決められた者を呼ぶ際に使用されているそうです。エレクトからの報告で、今回姫様が接触した聖女。それが十五番目のオーで、フェアリオ」
それにグレインフェルドは怪訝な顔をした。
「オー? これは、新しい情報か?」
「はい。最新です。隠し持っていたようで、他には渡っていないかと。余談ですが、左側のフライツフェイ家が再び境会に乗り込み、それにより急いで資料を移動していた祭司の元から手に入れたと」
「……」
「次期様、どうかされましたか?」
「……いや、続けてくれ」
「次に王警務隊に関する情報です。ナイトグランドのアーナスターから聞いた、一部の警務隊員が旧教会の魔除けを刻んでいる事について」
「旧教会の司祭は本来、宗派の違いにより境会の手の者を避けているはずだが」
「……」
心に引っ掛かったある思い。沈黙に会議を進めたグレインフェルドだが、終了に席を立つ部下の中に紛れる、小さな少年を呼び止めた。
「セオル殿と、エルローサとの関係ですか?」
「熱心な信徒というだけでは、貴方たちに簡単にはたどり着けないと思ったのです」
「そうですね、私は、父上から彼の母方がエルローサの血族だと聞いています」
「!?」
「とても遠いそうで、王の血筋ではないそうですが、民の末裔だと。それが関係していると思っていました」
「……」
**
会議も終わり、人の出入りが少なくなった頃にセオルがやって来た。グレインフェルドへの定期連絡の内容は、まだ完全には無くならない結界の懸念。
どこか疲れた表情でグレインフェルドの執務室を後にすると、暖かな光が溢れる客室から明るい声がした。
「セオ!」
甘味を食べてお茶を飲むのはリリーとファン。それにセオルは、作り笑いに口角を上げる。
「疲れているわね。ご一緒にケーキでもどうかしら?」
「これから学院に戻りますので、お心遣いだけ、感謝致します」
「あまり、無理をされないで下さい。私が王都に来たせいで、ご迷惑を…」
俯いたファンにセオルは首を振ったが、それをリリーは明るく笑う。
「大丈夫、ファンくんだけでなく、私もいつも助けてもらっているの。セオは昔から、私を助けてくれているのよね?」
思い出すのは幼少期の失敗ばかり。だがいつも、それをセオルは温かく見守っていた。
「…貴女は、私にとって幸運の護り石みたいなものなのです」
「護り石ですか?」
王の息子ではあるが、力無いセオルの立場をダナーという力が護っている。首を傾げるファンに『ラッキーアイテム』と胸を張りリリーが何かを言ったが、それも聞き取れず少年の首は反対側に傾げた。




