表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/200

62

 

 

  「学院だけではなく、外でもあんな事をしているのね」


  大切な時間に水を差した。リリーはそれに眉をひそめる。

 

  「結局、あの方たち、何を調べに来ていたの?」


  「?」


  「気になっていたの、ずっとファンくんのパフェを見ていたわ」


  「??」


  「購入証明とか言っていた。『レシート』見せてって確認?」


  興奮したリリーが何かを言ったが聞き取れなかった。未だ硬直が解けないファンを前に、リリーは少年と目の前のパフェを見比べる。


  「まさか本当に、ダナー(うち)が支払いをせずにパフェ(これ)を食べているのか確かめに来たの? 心外だわ、信じられないわ。これをお兄様たちが知ったら、想像出来ないわ」


  「姫様…、」

  「……」


  リリーの憤懣にエレクトは目を瞑り、ローデルートはいつもの事だと微笑んだ。


  (勘違い……?)


  初めて見るリリーの姿に呆気に取られるアーナスターは、令嬢の背後、王警務隊よりも鉄の表情の侍女を見た。そしてプッと笑いが込み上げる。


  「どうされたの?」


  「いえ、パフェではありませんよ」


  「そうよね? そんな訳はないと思いたい。もし私の休日のパフェに文句を言いに来たのなら、それこそ彼らの存在意義を、お父様から国王に進言してもらうわ」


  (……)

 

  初めは冗談かと思ったが、三人の護衛たちの苦々しい顔に、それを本気か計りかねる。だが自分を見つめる金色の瞳に気づいたリリーは、突然にっこり微笑んだ。


  「今日は、とてもお声が出ているわ。先程は、アーナスターさんが追い払ってくれた様なものよね。やっぱり、商人(ほんしょく)の方はおかしな言いがかりにも対応が素晴らしいわ」


  「!」


  賛辞と美しい笑顔に、アーナスターは赤面して俯いた。そしてリリーとの出逢いに集中出来なかった理由、今もぎこちない少年に目を向ける。


  「……王警務隊(かれら)は、奴隷に関する調査で来たようです」


  アーナスターの視線に気付いて、再び身を固めたファンだったが、「そうだ!」と言ったリリーに驚いた。


  「そういえば、アーナスターさんのお家では、奴隷を扱っているのよね?」

 

  「……はい。現在は、規模は縮小されていますが」


  なんでも手広く行っていた、兄のグラエンスラーの事業の一つ。アーナスターはそれを積極的に引き継いではいない。


  我が物顔でこの場に乗り込んできた王警務隊とも、顔の広いグラエンスラーはやり取りをしていた。今も残る兄の功績に気分が沈んだが、そんなアーナスターに、再びリリーは問いかける。


  「縮小ということは、売り上げが減っているからなの?」

 

  「一概には言えませんが、昔ほど需要はないと思います」


  「……なら、奴隷を扱う事を、やめる事は出来ないの?」


  「?」


  思ってもいなかった言葉に、アーナスターは何の事かとリリーを見つめた。目線の端では、同じ様にファンも顔を上げてリリーを見ている。


  「百害あって一利しかないというなら、やっても意味がないわよね?」


  「奴隷の取り扱いに、反対ですか?」


  「そうね。彼らが奴隷にならない、普通に暮らす権利が必要だと思う」


  「……」


  いつの間にか解けていた緊張。ファンは、奴隷を語るリリーを見つめる。


  聞き終えたアーナスターはリリーの真摯な様子を見て、思いは汲んだが現実を告げる事にした。


  「うちが辞めたとしても、別のものが始めるでしょう」


  「でもアーナスターさんのお家は、王都では一番の商家よね? そこが利益が見込めないと手を引けば、誰しもが損をするって思うはず」

 

  「これは、王が許可している事業なのです」


  「国王」


  「はい」


  最近、ダナー家のグレインフェルド名義で奴隷が多く購入されている。その目的が、リリーのためであるとアーナスターはこの内容で確信出来た。


  グレインフェルドは、王命に背かず奴隷の命を助けている。その意図を理解したアーナスターは、リリーの理想に更に現実を突きつける。


  「うちで取り扱いを減らす事は出来ますが、完全に手を引き、裏で別の国への流通が増えれば、それこそ奴隷(かれら)の痕跡も追えなくなります」


  「……でも」


  「王命が取り消され、根絶とならない限り、ナイトグランド(我々)が管理する今は、最善かと思います」


  「人として、善い事ではないのよね」


  テーブルの上に広げられたアーナスターの両手。


  「商売に善悪は関係ありません。右も左も、光も闇も関係ない。重要なのは利益だけです」


  それは左右同時に握られる。


  「一利しか出ないのに」


  「目先の利益ではありません。王に従うその一利は、後で大きな利益と変わるのです」


  「……」


  リリーに言い聞かせる様に語ったアーナスターだが、それを聞いていたファンは、飾り付けられた甘味に力無く目を落とした。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ