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短編集

長寿権、貴方は買えますか?

作者: 浩志

20××年、与党は野党の反対を押し切って採決を強行した。日本は年金制度どころか国民皆保険制度すら崩壊していたのだ。超少子高齢化社会となり、働く世代が年金受給者だけではなく、長寿化した事により高齢者を支え切れなくなっていたのだ。四十を過ぎたら過酷な生存競争へと日本人は飛び込まされる事になったのだ。


そもそも団塊の世代と呼ばれる最後のベビーブームの赤ちゃん達が年金受給者になった頃から崩壊の兆しは見えていたのだ。運用失敗による年金資金の喪失の責任は誰もとらず、GDPに対する借金の額は先進国最悪だったにも関わらず、政府は対策を取らなかった。日本は技術力で世界で確固足る地位を築いていたが、それも後継者の不足によって技術者が育たず失伝したものも多い。


そして日本人はブルーカラーと呼ばれる仕事を嫌がり、ニートの増加。年功序列制度が崩壊した事によって労働力は流動的となったが、正規雇用は減り非正規雇用となり最低賃金での労働を強いられる貧困世帯が増えていたこともまた問題であった。何を考えていたのか分からないが、政府自体が非正規雇用を推進したのだ。それに伴い確かに最低賃金は上昇したが、職種によっては高校生も熟練のアルバイトも同賃金で働かせる事になり、企業は高校生を雇う事を嫌がる様になった。


どんなに能力があっても新卒で入社する以外には正規雇用には高いハードルが付きまとうようになった。新卒を雇えば政府から助成金が入る事をあてにしているブラック企業は大量入社させて大量解雇する事を繰り返し行い、企業体力のない中小企業は新卒よりも遥かに安く使う事が出来る派遣やアルバイトで人件費を抑えようとしたのだ。法令を無視したコンビニ業界はフランチャイズシステムを保つ事が出来なくなり、本部直営店を除いては二十四時間営業をすることすら困難になっていた。


確かにコンビニの店員には特別な技能は必要ないのかも知れない。だが、今の生活に欠かす事の出来なくなっているコンビニで働く者の待遇は悪い。オーナー店舗であれば厚生年金もなければ会社の健康保険に入る事も出来ず規定労働時間を満たしていても有給休暇を取る事すら出来ないが、彼等・彼女等には不満を持っていても事情があって転職が出来ない者も多かったが、成立した新法『少子高齢化に伴う人口抑制に関する安楽死施行法』によってコンビニ店員の多くが長寿権を購入出来ずに安楽死する事になったのだ。


優性法に似ているかも知れないが、精神疾患や遺伝子疾患による病気を持った者は四十歳を待たずに安楽死が決定する。逆に優秀な頭脳や身体能力を持つ者は寿命を全う出来る様にすることによって日本全体の生産性を上げようと言うのがこの法律の主旨だったが、当然の如く抜け穴はある。年収や社会的地位を以て審査する事は当然の様に行われて四人以上の子をなした夫婦については四十五歳まで政府の保護下において不自由のない生活が保障されることとなったのだ。


子供がいなくては、将来に希望はない。多い事で起きる問題よりも先ずは生産世代の人口を増やさなくては日本人という民族が地球から絶滅してしまう危機にあったのだ。四十になる事で長寿権を得られなかった者は安楽死を迎え更新される長寿権は高齢になるほどに人数が限定されており、生きる価値のある者のそうでない者を明確に分けた。技術を持っていれば生き残る事が出来る。それは苛烈なまでの生存競争を生み出す事に成功した。無職で生活保護を受けている者が長寿権を得る事は叶わない。長寿権を買える者達は必然的に金や権力を持っているために介護保険や年金、健康保険も四十代以上に対して必要なく、全額本人負担にすることで歳出の圧縮に成功した。


金を持っている人達から回収しない手はなく、若い世代を支える為に搾取される構造が徐々に出来上がった。それも日本が世界で競争力を維持するのに必要な事であった。若い世代が増えれば、選挙権を多く持つ若者に政治家は配慮せざるおえない。何故ならば政治家は政治家である間は安楽死から逃れる事が出来るが一定期、議員として働かなくては長寿権を維持出来ない構造へとなってしまっていたからだ。『少子高齢化に伴う人口抑制に関する安楽死施行法』を制定した世代の議員達は思惑通りに寿命を全うする事が出来たが孫の世代にもなると徐々に高齢者よりも若者が増えて来ていた。


老害はさっさと安楽死しろという風潮が社会全体に拡がり自分達も何れは歳をとるという事実も都合良く解釈してきた事によって長寿権は高額で売買する対象になった。最初は十五年刻みで更新されていた長寿権も十年、五年と短くなり、法律の改正によっては一年毎の更新制になるだろう。末期になれば問答無用で四十以上の世代が安楽死させられる事になるかもしれない。それも年金問題を始めとした諸問題から目を背けてきた結果なのだ。今ならまだこの未来を回避する事が出来るかも知れない。そんな時代が来ても俺は生き残る事が出来るから心配要らないと思うかも知れない。


本当にそんな時代が訪れた際に貴方は本当に長寿権を買えますか?

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