2話 妹が可愛すぎて、朝
2話 妹が可愛すぎて、朝
「あ、朝だ……」
首をもたげてみると、壁には、妹の高校の制服の代わりにパジャマが吊るされていた。パジャマって畳むものなんじゃなかったっけ。
ところで昨夜の記憶が全くなかったのだが、周りに散らかっている網を見て思い出した。
レーザートラップに気を取られて、ピアノ線の存在に気がつかなかったのだ。バランスを崩し転んだところを謎の巨大網で吊るし上げられ、今に至る、ということなのだろう。
「姉の夜這い対策のためにピアノ線使うとか、常軌を逸しているのだ……」
でも、妹は何事もなかったかのように、平気な顔で朝食を食べている。
美少女の目に美少女の口、鼻、美少女の輪郭に美少女の髪、全身美少女の美少女が目の前にいるのだ。
「そんなにじろじろ見て、どうしたの……? お姉ちゃん……」
美、美少女に話しかけられたのだ!
「えっ、あっなっ、なんでも、ないのだ」
「もしかして、熱でもあるの……?」
「そんなもの、あ、あるわけないのだ!」
「……?」
不思議そうにして、おでこをくっつけてくる。
「う、うう……姉妹でこんなことするとか、美少女でもなければキモいの一言なのだ……が――」
良い匂いがするのだ!
口臭が美少女のそれなのだ。今朝の朝食は食パン一枚なのに(貧相な食事とか言ってはいけない)、何故かメープロシルップの甘い香りがするのだ! あ〜舌をちょこっと出してペロってしたいのだ。
「ひ、昼だ……」
間違いなく昼なのだ。
私が椅子に座ったまま数時間気を失っているうちに、妹はもう学校へ行ってしまったようだ。
気を失っていたとか簡単に言ってしまったけど、そんな現象、女子校生は一度も経験することなく大人になるのが普通なのだ。いや、女子「校」生って何なのだいったい。
あの後何があったのか、記憶が全くなかったのだが、口の中のヒリヒリ感で思い出した。
私は本当にちょっとだけペロッちゃったのだった。ぺろってやったら、何故か知らないが、妹の下唇に痺れ薬的何かが付いていて、そのまま私は卒倒してしまったのだった。
「というか、姉のボディタッチ対策のために痺れ薬的な何かを使うとか、猟奇的なのだ……」
もしも私がペロっと派じゃなくてベロベロ派だったら、今頃大量の痺れ薬的な何かの摂取で、恐らく全身麻痺で病院送りになっていたのだ。
それに、制服に違和感が――。
「……これ、妹のなのだ?」
やったのだ。
間違いないのだ。だってサイズが全然あってないのだ。私と違ってちびじゃない妹の制服は、私のより大きいのだ。特に胸のあたりが……。そう言えば、姉妹で服を変える、みたいなのを、この前雑誌で妹が読んでたのを私は見ていたのだ。アホみたいな雑誌とか言ってはいけない。
そういうことやりたいなら、直接言ってくれたらいいのに!
と。
こうしてはいられないのだ。
「早く学校に行って、パツパツの制服を着た妹を見に行かなきゃなのだ!」
「そういうのやめなさい!」
「お、お母さん……」
まだいたのだお母さん。そもそもお母さんは、また気絶した私を起こしてくれなかったのだ?
「専業主婦なんだから一日中家にいるのよ。いたら悪いの⁉︎(お皿が割れる音)」
「タイミングの問題なのだ」
お母さんは出て行くと言い、なんかお父さんも付いていくと言い出し(よく見たらお父さんもソファで寝転んでいたのだ。仕事はどうしたのだろう)、その日から私と妹の二人暮らしが始まったのだった。
『両親への未練、一縷も無し!』