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4話 男の秘密




 地面はパチッ、……パチッと音お立ててまだ燃えている。

 そんな中、少女は男を見詰める。


「イグは、……火族なの?」


「……」


 男もまた少女を見詰めていた。



 この世界には大きく分けて5つの種族がいる。


 人族、獣族、火族、風族、地族の5種族。教会では人族と獣族は唯一神である創造の神エルターが創ったと教えている。

 そして火族、風族、地族は邪神が創った異端の種族だと教えていた。


 その火、風、地が付く種族はその属性の魔法を扱うことができた。人口は3種族合わせてもこの星全体の0.01パーセントにも満たない。

 だが人族と比べその力は圧倒的で、少人数で一つの国を滅ぼせるだけの力を持っている。


「イグ?」


 男は黙り、少女は心配そうにしている。

 イグは悩んでいた。正直に自分のことを話すかを。


「……俺は火族じゃないよ。熱かったろ。大丈夫か?」


 茫然と自分の顔を見詰めるリュオの頭をイグは優しく撫でる。


「うん。……でも魔法を?」


「今夜はもう狼は来ない。さっ食事にしよう」


「……」


 イグは答えをくれなかった。リュオはなんと言えばよいのか分からなくなってしまい口を閉じた。







 二人は焚火を囲み固いライ麦パンを無言でかじる。

 対面に腰を下ろしたリュオが澄んだ青い瞳でイグを見詰めていると、彼は諦めたのかおもむろに語り始めた。


「これは先祖返りっていうらしい。俺の両親や兄弟は普通の人族だ。髪や瞳の色もこんなに赤くない」


「……」


 リュオが静に相槌を打つ。

 イグは少し沈黙をしてから話しを続ける。


「だがこの辺りじゃ魔法が使えるってだけで教会は異端審問にかける。生まれが騎士や貴族なら大したことにはならないが、俺みたいな素性の分からない行商人は神の名の元に処刑される可能性だってある」


「そう……なの?」


 リュオは不安そうにイグの顔を覗きこんだ。


「ああ、だからずっと隠してきた。だけど狼に食われるよりはましだからな。それに火族はもっとリンゴの様な真っ赤な髪で身長も低いんだよ。男性でもリュオと同じくらいかな」


 リュオの身長は153センチ。



 教会は魔法を使える種族を異端としてきた。それには理由がある。かつてこのアトラス大陸は数多くの小国が鬩ぎ合っていた。しかし西の方より火族と同盟を結んだブリトリーデン王国が数十年を掛けてこのアトラス大陸を統一したのだ。


 たくさんの小国の王や貴族は処刑された。そしてその中から逃げ延びた者が今の教会を創り。また隠れ蓑にしてきた。故にこの大陸を支配するブリトリーデン王国と教会は水面下では常に対立をしている。


 火族に滅ぼされた国も多い。魔法を使える種族を異端とし、この大陸から排除しようと教会が考えられるは当然のことだった。


 イグは「ふー」と息を吐き話しを続ける。


「俺が使える魔法は第3階級までなんだ。魔法には階級があってもっと上の階級からはかなり強力な魔法になるらしい」


「詳しいんだね?」


 リュオは呟くように喋り静にしている。


「ああ。……16の時に親方と王都ブリトリーデンに行ったんだけど、そこで俺はとてつもなく身なりの良い服を着て、この炎よりも赤い髪と瞳をした少女。……いや女性か」


 そう言うとイグは焚火に薪をくべる。その瞳は昔の事を思い出している様で、少しだけ虚ろに見えた。


「その女性は俺の髪と目を一目見て言ったんだ。俺の中には精霊フレアの欠片があると。その時は何のことか分からなかった。だがその後話す機会があって、先祖返りのことや魔法の詠唱のこと、魔法の階級なんかを教えてもらったんだよ」


「それで、……可愛い子だったの?」


「はぁ?」


 イグが顔を上げるとリュオは真剣に彼を見ている。


「まぁ綺麗な人ではあったけど、俺よりも幼く見えたからそう言う対象としては見ていなかったけど」


「イグは子供っぽい子は好きじゃないの?」


「えっ?」


 イグが再び視線を上げると彼女はさらに真剣な表情を作っている。


「いや、俺の女の趣味なんてどうでもいいだろう?」


「ぶー。知りたいのに」


 リュオは拗ねたように口を尖らせてから表情を戻した。


「じゃそれまでは魔法が使えるって知らなかったの?」


「ああ、知らなかった。そして知ってしまったら恐くなったよ。教会に目を付けられるんじゃないかってね。だがあの人には感謝している。魔法が使えなければこのフルリュハイト大森林は抜けられない。こうして行商人としてそれなりに稼げるようになったのは、あの時あの火族の女性が魔法を教えてくれたからだ。

 確か名前は……、……ステラ・ヴィヴィトレア様」


「イグ、安心してっ!」


「ん?」


「もし教会に狙われてもアタシが守るからっ!」


「ぷっ」


 リュオは薄い胸を張り。イグははにかんで笑った。


「むー、信じてないでしょ?」


「信じてるけど明日、お前を村に送り返す。だから自分の身は自分で守るよ。お前はこのことを誰にも言わないでくれ」


「アタシは帰らないッ!」


 リュオが大声と共に立ち上がる。


 その様をイグは冷静に眺め、それから溜息を吐いた。

 そしてあきれたような態度を取り口を開く。


「お前な~。だいたいなんで行商人になりたいんだよ。昔はそんなこと言っていなかっただろ?」


 立ち上がったリュオは胸に片手を添えて、青く澄んだ瞳に決意を宿た。


「アタシの秘密を聞いて欲しい」








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