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38話 二人の決断



「リュオ、行こう」


「……オルはどうするの?」


 その問いにイグは目を瞑り眉間に皺を寄せた。暫く黙った後、微かに震えた声で言う。


「馬はまた買える。だが命は買えない。……諦めるしかない」


「……」


 イグは荷馬車を引いて南門に向かって歩き出す。リュオは黙って馬車を後ろから押した。


 南門に着くと暗闇の中、門の前の広場で火を焚いて明るくなっているところがあった。町の住人が数人集まって松明を焚き何かをしている。二人はそこへ近づいていく。


 町人が囲っていたのは死体だった。まだ殺されて間もないようで体中血塗れになっている。3人やられていた。遺体は地面に綺麗に並べられ顔には布が掛けられている。


「酷いことをする」


 町人の一人が言った。


 その横を通り過ぎた後、リュオがイグに尋ねる。


「ヴォッガに行く時、通行税を払った人達だよね?」


「ああ」


 殺されたのは門番を務める役人だった。


 大きな門の脇に馬車が1台だけ通れる通路がる。二人はそこから街の外に出た。街の外は暗闇ではあったが月明かりが辺りを照らし視界は通っていた。

 周りにはイグ達のように騒ぎを聞きつけ街から逃げようとする行商人が数人いた。


「荷も馬もないようだが取られたのか?」


 近くいた商人に話し掛けられた。


「ええ、ここへ来る途中に」


「そうか災難だったな」


 男は俯くリュオを見てから口を開く。


「嫁もいるんじゃこの先大変だ。俺の食料を少し分けてやるよ。次の街まではもつだろう」


「すみまん……、ありがとうございます」


 男は南門前の店で酒を飲んでいたところテンウィル騎士団の襲撃を目撃して、慌てて逃げたそうだ。

 偶然居合わせた商人から僅かな食料を受け取るとお礼を言い、二人は荷馬車を押して街から離れる。




 暫く行った所でリュオの足が止まった。


 前で荷馬車を引いていたイグは急に荷馬車が重くなり後ろを振り返る。

 後ろで荷馬車を押していたリュオが立ち止まっていたので、一旦馬車を放しリュオに歩み寄る。


「どうした?」


「……オル、食べられちゃうの?」


 リュオは悲しそうに眉を吊り下げイグを見詰める。


「それはわからん。あいつは嘘をついて人をからかうのが好きだった。それに馬は人の為に働く。売れば大金になる。だから馬を食べるのは最終手段だ」


「じゃあ食べることもあるんだ」


「そういう話しは聞いたことはあるが……」


 俯いたリュオの肩は震えていた。イグはその両肩にそっと手を掛ける。


「……リュオ」


 俯いたリュオは少し黙った後、言葉を出す。


「イグ……、やっぱりアタシ……」


 そして顔を上げた。


「オルを助けに行く」


 その青い瞳には決意が宿っていた。


 しかしリュオの肩に両手を掛けたイグは首を横に振る。


「ダメだ。殺されに行くようなものだ」


「でもッ!」


「奴等は平気で人を殺す。見ただろ?」


「それでもオルを助けたいッ!これからも一緒に旅をしたいッ!」


「ダメだッ!」


 リュオが声を強め、それに被せるようにイグは怒鳴った。リュオの体がビクッと震える。


「イグは待ってて。アタシは夜目が利く。ライライチョウよりも早く走れる。それにオルに乗れるから奪い返して乗って逃げることもできる」


 イグの怒鳴り声に少し臆しながらもリュオは細い声で訴える。


「……馬も荷も何年も掛けて努力して手に入れた商人の財産だ。俺の親方はそれを守ろうとして奴等に逆らって殺された。

 俺はその時思ったんだ。生きてさえいればまた一からやり直せる。命に見合うものなんてないんだ」


「アタシは死なない。オルは大切な仲間だよ。うんん。アタシは家族のように思っている」


「俺だってッ!」


 イグが叫びリュオはまたビクリと驚いた。


「俺だってそうだ。あいつを買ったときどれだけ嬉しかったか!何年も努力して金を貯めて。それからずっと大切に世話してきた……」


「イグ……、待ってて。絶対に取り返してくる」


「……ダメだ」


 イグは絞り出すように言葉を呟く。


「アタシは獣人だよ!人族になんて負けない」


 胸に手を添えたリュオは訴えるように声を大きくする。


「お前を失ったら俺は……」


 イグは目を瞑った。


「……神に救済を求めるかもしれない」


「死ぬってこと?」


「…………。俺は金が欲しくて商人なったんじゃないんだ。今更になってようやく気付いたよ。金はただの口実。結局俺は誰かと一緒にいたかっただけなんだ」


「……イグ」




「俺も行く、お前に何かあって後悔するくらいなら俺も一緒に……」


「うん。わかった。だけど絶対に生きて帰るからね。そでオルとアンヌ金貨100枚を持ってみんなで次の町に行こう」


「ああ、そうだな」


 二人は強い視線で見詰め合い。頷き合った。









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